◆生活文化・エネルギー◆ 地球生物はなぜ「左利き」の
             
アミノ酸のみを使うのか
アミノ酸は生物にとって必須の分子だが,L-体(左利き)のものと,D-体(右利き)のものの2種類が存在するのに,地球生物はL体のみを使っている。この理由には諸説があるが,最近では,宇宙にその起漁を求める説が出されている。本研究では,宇宙空間に存在するアミノ酸が,中性子星からの円備光を受け、一方のみが分解された。というシナリオの検証を試みた。イソバリンというアミノ酸の水溶液にシンクロトロンから発生する円偏光を照射したところ,一方のアミノ酸が他方よりも多く分解されることが確認された。
【2EO7】  シンクロトロンからの円備光を照射されたアミノ酸のD/Lの判定

(横浜国大院工1)高野淑識1・金子竹男1・○小林憲正1・(NTT通信エネルギー研2)高橋淳一2
(Arizona State Univ.3)Sandra Pizzarello3, John R. Cronin3
[連絡先:小林憲正,Tel:045−339−3938]

 地球生命のタンバタ質を構成するアミノ酸は,L-体のみからなる.ミラーの実験のように化学進化の模擬
実験を行う場合,アミノ酸はD-体とL-体が等量生成(D:L=50:50)する.なぜ,生命はL-体アミノ酸だけを用いるようになったのか? その生体光学活性に関する謎は,ルイ・パスツール以来150年に法って未だ解明されておらず,生命の起源を考える上で極めて重要である.1997年,炭素質隕石であるマーチソン隕石中からL-体優位のアミノ酸が報告された1).とりわけα-水素を持たないアミノ酸の一種イソバリン
(α-amino-α-methylbutyric acid)では,8.4%のL-体が優位であった.このことは,生命の誕生に先駆け,化学進化の段階で何らかの物理的不斉が寄与したことを示唆するものである.
 それら生体有機物の不斉源として,超新星爆発により生じた中性子星からシンクロトロン放射される円偏光が有力視されている。つまり,右ききのアミノ酸(D-体)が,右回りの光(右円偏光)に照射されれば,やがて光分解される・その結果,L-体アミノ酸がやや多く残存することになり,それらが彗星や星間塵として地球に降り注ぎ,生体光学活性の起源になったというシナリオが描ける(図1).
 そこで,我々はNTT放射光施設のシンクロトロン加速器から放射される左右それぞれの紫外線領域円偏光を用いてアミノ酸(D,L-イソバリン)の絶対不斉分解を試みた.その検証を行う場合,分析上の大きな課題として光学異性体を分割した際のD/L比の分析誤差が挙げられる・アミノ酸のD-体及びL-体を光学分割するに は、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC/MS)や高速液体クロマトグラフ(HPLC)及び逆相高速液体クロマトグラフ(RP-HPLC)によるクロマトグラフ分離が主な評価手法となる.それぞれの特性と利点を加味し,相互比較を行いながら,もっとも適した分析条件を見いだしアミノ酸の不斉創成の評価を試みた.今後,シンクロトロン放射光を利用した絶対不斉合成が期待される.