◆医療・生命◆   ダイエット用薬剤マジンドールの適正な使用を監視
 高度肥満症患者のための食欲抑制剤としてマジンドールという薬剤が承認され使用されている。本薬は食事療法,運動療法の補助薬として処方されるが,その薬理的特性は覚せい剤に類似しており,薬物依存性に充分な注意が必要である。著者らは,投与計画・効果の確認・管理などマジンドールの適正な使用に役立てるため,血液中の本薬及びその代謝物の濃度を測定する簡便・高感度な方法を開発した。本法は,マジンドールの適性使用の監視や体内動態の把握などにも有用と思われる。
【1F02】     食欲抑制剤,マジンドールのHPLC-UV定量法の開発と応用

(長崎大院・薬)○森 美和子・アマル カドゥミ・中嶋弥穂子・高橋正克・中島憲一郎   
[連絡者:中島憲一郎,電話:095-847-1111(内線2557)]
  マジンドール(商品名:サノレックス)は食欲抑制剤として我が国で初めて承認された薬剤である。本剤は高度肥満症(肥満度が+70%以上またはBMIが35以上)における食事療法及び運動療法の補助に用いられている。肥満で悩む人にとって福音ともいえる薬剤であるが,その薬理学的特性は覚せい剤に類似しており依存性に十分な注意が必要である。一方,昨今のダイエットブームは種々の薬剤を不正に使用するケースを増加させており,覚せい剤はその代表例である。食欲抑制剤であるフェンテルミンやフェンフルラミンは心機能障害などの副作用のため正規の市場からは撤退しているが,いまだにブラックマーケットで流通している。今回の研究対象であるマジンドールは処方薬としての使用に限られているが,ダイエット用として流通し,不正に使用されている。私たちはこれまで覚せい剤関連化合物の臨床分析化学的研究の一環として,アンフェタミン類,フェンフルラミン,フェンテルミンなどの高感度定量法の開発と生体試料への適用を図ってきた。本研究ではマジンドールを対象にして血液中の濃度測定法を開発し,投与計画・管理などに利用して,マジンドールの適正使用に役立てることを試みた。マジンドールは体内で代謝されるが,その代表的な代謝物(M1)も同時に分析できる方法を考案した。測定方法はできるだけ簡便な方法とするため,高速液体クロマトグラフィー・UV検出を利用した。血液中のマジンドールとM1は30分以内に良好に分離することができた。本法の検出下限はマジンドール=0.07 ng/ml,M1=0.08 ng/mlと非常に高感度である。また,血液試料中のマジンドールは室温放置すると不安定であり,採血後の保存には十分注意する必要があることも分った。マジンドールで加療中の同一患者から得られた血液試料(12検体)を測定した結果,マジンドールとM1が検出され,その総濃度(未変化体+M1)の平均は1.2 ng/mlであった。本法は簡便で高感度であり,薬物の体内動態研究や投与計画・管理あるいは不正使用の把握などに有効であると期待される。