◆環境・防災◆ クロマツの葉から分かるダイオキシン類似物質による
        環境汚染の実態
 ダイオキシン類似の毒性があることが報告されている塩素化ナフタレンは,その分析法が確立されておらず,詳細は不明のままであった。著者らは塩素化ナフタレンの迅速・簡便な異性体別分析法を開発し,吸着しているクロマツの葉に注目し,東京湾周辺地域と米国内各地の塩素化ナフタレン汚染状況を調査した。その結果,米国内のゴミ焼却場付近は非汚染地区に比べて有意に汚染が観測された。本法は,塩素化ナフタレンの給源推定や危険性評価としての包括的分析法として注目される。
【1E26】         常緑針葉樹葉中の塩素化ナフタレン及びダイオキシン類の分析

(産総研 環境管理研究部門 ・ 茨城大1) ○羽成修康・谷保佐知・堀井勇一1・山下信義
「連絡者 : 山下信義 , 電話(代表) 0298-61-9043」
塩素化ナフタレン(polychlorinated naphthalene : PCN)は「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づく第1種特定化学物質であり、過去、難燃剤・熱媒体・絶縁物質等、多用途に莫大な量が使用されたが、その有害性が明らかになり1970年代に生産・使用が禁止された。また、PCNは75種類の異性体を含み、日本国内ではダイオキシン類としては認識されていないが、5〜7塩素異性体の一部はダイオキシンやコプラナPCBと同等の毒性を持つことが報告されている。最近の調査では、PCBと同様に広く環境中から高濃度に検出されており、早急に危険性評価研究が必要であるが、毒性評価を可能にするための異性体別分析法が確立していないため、国際キャリブレーション等、信頼性の高い分析法開発が最も必要とされているダイオキシン類似物質の一つといえる。発表者等は昨年、世界各国より収集した20種類近くのPCB製剤中に含有されるPCNの異性体別分析を初めて行い、PCB製剤中不純物質としてのPCN放出量は全世界で169トンであることを発表、さらに東京湾柱状試料中のPCNの鉛直分布も明らかにし、PCN汚染の歴史的復元を行う基礎を確立した。これらの研究の一環として、本研究では大気汚染の長期的な指標となる常緑針葉樹葉表面に吸着されているPCNとダイオキシン類の測定を行った。特にPCNに対しては初めて、簡便迅速な溶媒抽出法とdouble column - HPLC法によるクリーンアップを新規開発し、60種近い PCN異性体の高精度分離・分析に成功した。この方法を用いて、東京湾全周を含む20地点の定点観測地点と、米国ケンタッキー州の高濃度汚染地域である廃棄物処分場を含む10地点から採集したクロマツ葉を分析し、含有される有害化学物質量を測定した。その結果、東京湾周辺のクロマツ葉中のPCN濃度は米国廃棄物処分場周辺の1/3程度であったが、米国非汚染地域よりも5倍以上高濃度であった。PCNは焼却場等、環境中での二次生成の可能性が高く、本研究で開発した簡便迅速・高精度異性体測定手法はPCN等、未規制のダイオキシン類似強毒性環境汚染物質について給源推定と危険性評価を行うための包括的分析法として期待される。