◆環境・防災◆  有機スズは地球規模で海洋を汚染
 船底塗料や魚網防汚剤に使用され,海洋生物に悪影響を及ぼす有機スズ化合物による海洋汚染の実態を,ガスクロマトグラフィーとICP質量分析計を組み合わせた新しい高感度分析法により検討した。この方法は,従来法の約1000倍の感度を有し,外洋の海水のレベルでも測定が可能である。これまで,湾内やその近傍に限られていた測定点を,海洋調査船や商船を利用して外洋域まで拡大し,表層水及び底層水を調査した。その結果,外洋域の表層水の有機スズ化合物濃度は,予想より高く,汚染は湾内に限定されずに地球規模で広がっていることが分かった。
【1E05】    GC/ICP-MSによる有機スズの地球規模海洋汚染実態の解明

  (産業技術総合研究所)○田尾博明・R. Babu Rajendran・中里哲也,(国立環境研究所)
   功刀正行,(高知女子大)一色健司 [連絡者:田尾博明,電話:0298-61-8788]
  トリブチルスズやトリフェニルスズなどの有機スズ化合物は、船底塗料や漁網防汚剤などに使用されたが、極微量でも巻貝にインポセックスを誘発するなど、海洋生物に重大な悪影響を及ぼすため、わが国では既に使われていない。しかし、世界的にみると多くの国で25 m以上の大型船には依然として有機スズ化合物が使われており、わが国の港にも出入りしている。また、これまで海底に蓄積したものが溶出し、食物連鎖を通して生物に濃縮されるおそれもある。このため、環境省では毎年、日本各地の港内海水や底質、及び魚のモニタリングを実施している。しかし、この調査も含め世界各地で行われている調査は、その大部分が港内やその近傍に限られるもので、岸から遠く離れた海域や、外洋域での汚染実態は殆ど明らかにされていない。現在、国際海事機構(IMO)において、有機スズ船底塗料の全廃が議論されているが、これらの議論の基礎資料として、外洋域も含めた地球規模での汚染実態を明らかにしておくことは重要と考えられる。また、全廃後の規制遵守の確認として、より高感度な分析法を確立しておくことも重要であろう。
  このため、我々はここ数年、ガスクロマトグラフ(GC)と誘導結合プラズマ質量計(ICP-MS)を結合した新しい分析システムの開発や、試料前処理法の開発を行ってきた。これにより、従来法に比べ約1000倍の高感度化を実現してきた。今回、外洋域を航海する海洋調査船や定期航路を運航する商船を利用して各地の海水を採取し、その有機スズ濃度を新しく開発した方法で分析することにより、外洋域の汚染実態を初めて明らかにした。トリブチルスズなどの濃度は、予想された値よりもかなり高く、従来、主に港湾に限定されていると考えられていた有機スズ化合物による汚染が、地球規模の広がりをもって起きていることが明らかとなった。