◆環境・防災◆  干潟はアサリへの金属イオンの取り込みを抑制する
 有明海の干潟は,日本の干潟総面積の40%を占める広さがある。有明海の濁りは小さな浮泥の巻き上げによるものであり,これにより海水中の金属イオンや栄養塩類,有機物が吸着・除去され,海水がきれいになっている。今回,干潟に棲息しているアサリ貝中の金属イオン濃度を調べたところ,干潟の形成が進んでいる地域ほど亜鉛・銅・カドミウム濃度が低いことが明らかになった。これは,干潟が金属イオンを取り込む環境浄化作用を持つことにより,生物への金属濃縮が抑制されることを示している。
【1E01】      有明海の干潟の自然浄化作用とアサリ貝への影響

(佐賀大理工)○田端 正明・松野 正彦 [連絡先:田端正明、電話:0952-28-8560]
 有明海は九州西部の長崎、佐賀、福岡および熊本の4県に囲まれ、南から北に大きく入り込んだ内湾である。その総面積は約1700 km2であり、ここに日本の干潟総面積の40%にあたる207km2の干潟が広がっている。干潟はモンモリロナイトとカオリンを主成分とし、大きな干満の差と長期間にわたる攪拌と浸食の結果、小さな浮泥の堆積からなっている。有明海の濁りは小さな浮泥の巻き上げによるものである。小さな浮泥は海水中の金属イオンや栄養塩類、有機物を吸着、除去する作用が極めて大きい。吸着した金属イオンや栄養塩類、有機物は干潮時に干潟に沈降し堆積する。有明海では「浮泥(濁り)」が海水をきれいにしている。干潟に濃縮された有機物は干潟に棲息する生物の栄養源となる。一方干潟に濃縮された金属イオンは棲息する生物にどのように影響を及ぼしているだろうか?
 有明海干潟の形成度合いが異なる3地域(川副、大和、多良)と干潟の形成が少ない玄界灘に面した海域(有浦、福島)について、それぞれの地域の潟(土)とそこに棲息するアサリ貝を採取し、亜鉛、銅、カドミウムの濃度を測定した。亜鉛の濃度分布を図に示す。干潟が進んでいる地域の土ほど金属イオンの濃度は高い。一方、アサリ貝中の金属イオン濃度は干潟に含まれる金属イオンの濃度にはそれほど大きく影響されていない。かえって、干潟の形成が大きい地域に棲息するアサリ貝ほど金属イオンの濃度は低くい。干潟は金属イオンを濃縮するために、海水中の金属イオンの濃度は減少し、干潟に棲息するアサリ貝中の金属の濃縮も減少していると考えられる。銅イオンについても同じであり、カドミウムも濃度が低いために誤差が大きいが、同じような傾向を示した。このように、干潟の環境浄化作用が干潟に棲息する生物の金属濃縮を抑えていることが明らかになった。
図 異なった地域の干潟とアサリ貝中の亜鉛の濃度分布