◆医療・生命◆   糖尿病予防食品の検索ツール
 糖尿病の治療及び予防には血糖値のコントロールが重要である。摂取された炭水化物は幾つかの段階を経て最終的にα-グルコシダーゼ(AGH)によってブドウ糖に分解されるので,AGHの働きを抑える食品成分の検索が必要となる。そのため,複数の検体を短時間で測定できるように,並列の6流路系にAGHを固定化し,阻害剤との相互作用を効率よく観察する手法を開発した。この技術を用いることで,食品成分の中からAGH阻害能を有する物質を容易かつ迅速に検索することができると考えられる。
【1D11】   α−グルコシダーゼ阻害活性を有する食品成分評価用センサーシステムの開発

(九大院生物資源環境)○高山聖史・松本 清[連絡者:松本 清、電話:092-642-3011]
 近年、食品の有する生体調節機能への関心が高まり、食を通じて生活習慣病の予防を図ろうとする研究が精力的に進められている。糖尿病の治療及び予防には血糖値のコントロールが重要である。食事中の炭水化物は消化管に分泌される消化酵素により二糖類にまで分解され、最終的には小腸粘膜に局在する二糖類分解酵素α-グルコシダーゼ(AGH)によりブドウ糖に分解され取り込まれるため、AGHを阻害することで血糖値の上昇が緩やかになると考えられる。この観点から、AGHを阻害する食品成分の検索が行われている。
 その一次検索法としては、酵母AGHと擬似基質を用い、阻害による応答の減少から評価が行われていたが、動物実験 ( in vivo ) の結果との差が問題となっていた。当研究室では既にヒト小腸AGHと高い相同性を有するラット小腸AGHを、小腸粘膜環境を模した条件で固定化したAGH固定化担体を作製し、本来の基質(マルトース、スクロース)を用いるpseudo- in vivo assay法を開発している(図1)。しかしながら、阻害力価の評価のためには適切な希釈系列による数検体以上の測定が必須であり、多検体評価への展開が望まれる。
 本研究は、酸素電極を組み込んたフローインジェクション分析法を基礎として、AGHを阻害する食品成分を複数検体逐次的に評価可能なシステムを構築したものである。これは、AGHにより分解され遊離するグルコースが、グルコースオキシダーゼ(GOD)により酸化されて消費される溶存酸素をモニターすることに基づいている。臨床用AGH阻害薬をモデル阻害剤として選択した予備実験において、瞬間的な反応時間では阻害性が正しく評価されないこと、及びAGHに阻害剤が強固に結合し、繰り返し測定を行う際に影響を及ぼすといった現象が観察された。そのため、キャリア溶液の送液を止めることにより試料をリアクター内で反応させ、さらにリアクターを並列に6列設置しバルブで切替を行い反応時間を適切に設定しつつ複数検体を処理可能なシステムを設定した(図2)。
 本研究によりAGH阻害物質の検索が容易なものとなることはもちろん、この原理を利用し強い結合性を持った阻害剤の検索への応用が期待される。