日本分析化学会第49年会について

第49年会実行委員長(岡山大学理学部)本水 昌二

 今年はミレニアムにあたり、キリスト教徒の多い国では各種行事が企画されている。仏教徒のはずの筆者もついミレニアムを祝う気になっている。ミレニアムは、“千年至福”の意があり、戦争や飢餓のない世界を期待したい。来る21世紀はあらゆる分野でグローバル化が進み、一国・一地域での勝手は許されず、“グローバルスタンダード:世界標準”を基準に物事を考え、行動しなければならない。“グローバル化”には期待されるものも多いが、これは自由化と弱肉強食を意味し、いち早く世界標準を握った者が勝組となる。
 技術創造立国を旨とする我が国では、いかに世界標準を数多く手中に納め得るかが国の将来を左右する。グローバル化に対応できる技術・製品には高品質が要求され、より高い品質のものを産み出すには、原料、中間製品、最終製品に至る多くの段階で厳しい品質保証が要求される。特に、化学品、医薬品、材料、素材等の製造工程では、化学分析・物理分析に基づく品質保証が基本的に極めて重要で、しかも用いる分析の質(正確さ、感度、精度)の高さで製品の品質が決まる。このようなグローバル化の時代、技術創造現場では基盤技術としての分析化学の継続的、かつ迅速な進歩・発展が不可欠で、その成否が企業活動の命運を左右する。例えば、医薬品、半導体分野ではppt(10E−12 g/g:1兆分の1)、ppq(10E-15 g/g)という極めて超微量の不純物が品質を決める。従って、その品質を保証する分析技術の開発にまず成功しなければ、新しい製品を完成し、世に送り出すことはできない。
 生命、エネルギー、環境等の分野においても、分析化学・技術の役割はますます高まっている。分析化学・技術の進歩により、遺伝子診断が可能となり、病気にかかる前に予防的措置をとることも可能となってきた。環境ホルモンといわれる化学物質のppt,ppq分析が可能となったことにより、生態系・人類子孫への影響等の科学的解明が可能となった。
 2000年度の日本分析化学会第49年会は、9月26日(火)〜28日(木)の間、岡山市内の岡山大学で開催されます。本年会では、1500名余りの研究者、技術者、学生の参加が見込まれ、一般講演のほかにシンポジウム、最新技術紹介のテクノレビュー、学会賞等受賞講演、市民分析化学講座など、計760件余りの講演が行われます。市民分析化学講座では、最近の環境間題に関する市民向けの講演のほかに、参加者が自ら環境測定するワークショッブ“身近な地球環境を分析してみよう”も企画されており、一般の人も自由に参加できます。
 この小冊子は、本年会で発表される講演から、特に社会的に重要で、又、市民各位にも関心が高いと思われる研究発表を選んで、分かりやすく解説したものです。これらを通して、分析化学という学問のおもしろさと重要性、社会的な役割、そして日本分析化学会の活動の一端を御理解いただければ幸いです。