福島県における放射性汚染物質の除染活動

(日本原子力研究開発機構)吉田 善行

 2011年3月中旬,東京電力福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質により,周辺環境が大きく汚染された。避難された方々や,不安を抱えながら同地域で生活されている方々が再び安心して生活できるようにするには,その汚染地域を除染する以外にてだてはない。広範囲で長期に及ぶ除染活動が予想されるが,一歩々々進めていくしかない。本講演では,福島県飯舘村の民家や伊達市の小学校などの除染試験(NPO法人放射線安全フォーラム,日本原子力研究開発機構らの共同活動)に参加した演者の体験をもとに,除染の現状と今後の課題についてお話しする。

 飯舘村や伊達市南部は福島第一原発から北西に30 km以上離れて位置する。3月15日に起こった同原発2号機の水素爆発で放出された放射性ヨウ素及び放射性セシウムが南東の風で運ばれ,同日夜の降雪とともに降り注ぐことにより,その広域に汚染がもたらされた。特に飯舘村長泥地区の空間線量率は村内でも最も高く,現在でも毎時約15 mSvである。これはその場所に3日間も居続けると1年間の許容線量の1 mSvを超えてしまうことを意味する。村全体もそこに住み続けると年間20 mSv(国際放射線防護委員会ICRPの提案「緊急避難区域の外側でも汚染環境下で生活する場合,被ばく線量が年間1〜20 mSvの範囲に収まるようにし,長期的には1 mSvを目指すべき」)を超えてしまうという理由で計画的避難区域に設定された。

2011年5月上旬から,飯舘村長泥地区の一民家を対象に,除染試験が実施された(この時点での除染対象は放射性セシウム)。屋敷,納屋,牛小屋等の屋根,及び特に高濃度の放射性セシウムが蓄積した雨樋部及び雨樋からの雨水受けなどの洗浄には,高圧放水による洗浄,ブラッシング,汚泥等の除去などが効果的であった。土壌の除染には,高分子を用いて土壌表層を固めて剥ぎ取るポリイオンコンプレックス法1)が効果的であり,また,同法は土壌の飛散防止にも効果があった。屋敷を取り囲むように生い茂っている杉,モミなどの常緑針葉樹には高濃度の放射性セシウムが付着しておりこれが最も大きな線源になっている。オートラジオグラフィーの結果から,これらの常緑樹の葉,小枝部分にほぼ均一にセシウムが付着していることや,セシウムが既に茎の部分に浸透している様子も観察された。屋敷周辺の除染によって,同家の室内の線量率は除染前の25〜80%にまで低減することができたがまだ不十分である。さらに線量率を下げるには,屋敷を覆っている杉等の伐採が必要である。ビニールハウス用農地,水田,牧草地の除染に先立ちこれらの土地のコアサンプルを採取してセシウムの深さ方向の分布を調べた結果,いずれの土地でも表面から2〜3cmの深さの表層部に95%以上のセシウムが濃縮されていることが分かった。このようなビニールハウス用農地,水田,牧草地の除染にポリイオンコンプレックス法を適用し,85〜95%の放射性セシウムを取り除くことができた。

 伊達市の小学校,幼稚園の除染試験では,校舎,付属施設建屋の屋上や排水路などの除染に高圧放水が効果的であった。また通学路などのコンクリート,アスファルト部の除染には,表層部(数mm厚さ)の機械的剥離が効果的であった。薄い酸溶液,各種洗剤,粘土鉱物懸濁液などを用いてコンクリート,アスファルト表面からセシウムを除去する方法を試みたが,除去率はせいぜい40%程度にとどまった。プール水の浄化には,ゼオライトでセシウムイオンを吸着させたのち,アオコや汚泥に吸着したセシウムを一括してポリ塩化アルミニウム凝集剤(PAC)を用いて凝集沈殿させる方法を用い,高い除染効率を得た。

1)長縄ら,日本原子力学会和文論文誌,Vol.10, No.4(印刷中)