放射線モニタリングの実際

日本原子力研究開発機構
山口 恭弘

1. 放射線モニタリングとは
 
福島第1原子力発電所の事故によって放出された放射性物質は、風に乗って福島県内はもとより広く県外にまで運ばれ拡散し、各地で検出されています。私たちは、この放射性物質が出す放射線を受けたり、放射性物質を含んだ物を体内に取り込んだりしていますが、これによる被ばくがどの程度で何らかの対策が必要か否かを知る必要があります。放射線や放射性物質の量を測定し決められた基準値と比べることにより、判断に必要な情報を提供することを放射線モニタリングといいます。

2. 放射線モニタリングに関係する基準値
 放射線被ばくによる人体への影響は、被ばく線量(人体が受ける放射線の量で単位はシーベルト)によって示されます。したがって、法令や国際勧告では、被ばくに関係する限度を被ばく線量で定めています。例えば、公衆の限度は年間1ミリシーベルト、職業人の限度は5年間で100ミリシーベルトです。しかし、被ばく線量を直接測定することはできません。そこで、この限度値から導き出され容易に測定・評価できる基準値が一般的に使われます。例えば、野菜、肉類中の放射性セシウムに関して、1 kg当たり500ベクレル(放射性物質の量の単位)が暫定基準値として使われています。

3. 放射線モニタリングの方法
 
発電所から放出された放射性物質が、人体に達するまでの色々な経路を模式的に下図に示します。人体の外にある放射性物質が出す放射線を受ける場合(外部被ばく)と、空気や水や食物等に混入した放射性物質を体内に取り込んでしまい、体の中から放射線を受ける場合(内部被ばく)に大別できます。外部被ばくに対する放射線モニタリングでは、線量計やサーベイメータと呼ばれる放射線測定器を用いて体の周りの放射線を直接測定して被ばく線量を評価します。内部被ばくに対する放射線モニタリングでは、空気中の埃や水や食物等の試料を専用の放射線測定器で測って、その中に含まれている放射性物質の量を評価します。また、ホールボディーカウンタという特殊な測定装置を使って、体の中の放射性物質の量を直接測って内部被ばく線量を評価する方法もあります。

 このようにして評価した被ばく線量や放射性物質の量を関係する基準値と比較することによって、被ばくを低減させるための何らかの対策が必要なのか否かの判断がなされます。

 以上のように、放射線モニタリングは、人間の五感には感じない放射線から身を守るための重要かつ必要不可欠な手段となっています。