第3回分析化学東京シンポジウム
標記シンポジウムが日本分析化学会関東支部の主催と日本分析器工業会の後援で1999年9月1日から9月3日の3日間にわたり幕張メッセ国際会議場,国際展示場内会議室および幕張プリンスホテルプリンスホールで開催された。
日本版ピッツコン(米国のピッツバーグ会議)を目指して3年前に始まった本シンポジウムは、大学・公的機関研究者あるいは産業界そして現場の研究者や技術者相互の交流をはかるイベントとして、しっかりと定着したように感じられる。
今回、本シンポジウムはで将来的な発展をみすえ、機器分析東京討論会との合同開催という新たな試みを行った。理念を同じくするこれら二つのイベントが互いの発展のために手を携えるのは自然の成り行きである。
合同開催に当たり、シンポジウム及び討論会の要旨集を一冊にまとめ、参加者が自由にそれぞれの会場を出入りできるようした。これによりシンポジウム参加者と討論会参加者との交流が生まれ、各会場において活発なディスカッションが行われた。
本シンポジウムの内容は、昨年までと同様に特別講演,シンポジウム講演,および招待ポスター発表から構成されている。初日に国際会議場で行われた特別講演は、東京討論会の特別講演と合わせて3件行われた。
最初の講演では、平石先生が経済のグローバル化から端を発した科学技術の分野におけるグローバルスタンダードについて解説され、その基礎となる標準物質およびそのデータベースについて実例の紹介を交えてわかりやすく説明された。
次いで二瓶先生はアカデミックな立場から、新しい分光法である光電子回折法について解説された。新しい学問領域の誕生を平易な言葉で語る二瓶先生の口調に、参加者は深い感銘を受けた。
最後に軽部先生は、自身の造語である「起創力」の解説から始まり、自身の研究成果などを織り交ぜながらいかに起創力を磨くかについて、わかりやすくかつ楽しく解説された。
シンポジウム講演では「分析化学アップツーデートシンポジウム」と題して、標準化と標準物質,分析値の信頼性・不確かさ,インターネット,および環境ホルモンといった分析化学に関する最新の話題について7件の講演が行われた。
標準化と標準物質に関する講演では、「信頼性」,「不確かさ」,「標準物質」,および「認証標準物質」といったキーワードについて詳細かつ明瞭に解説された。ともすれば言葉のイメージだけが先走りがちなこれらのキーワードについて認識を新たにすることができた。
さらに国際標準化の最新の話題に関する講演ではグローバルな視点に立って標準化の動向と日本の取り組みについて事例の紹介と合わせて具体的に解説された。
また、分析値に関する講演では、標準物質をベースとした分析値の信頼性あるいは不確かさそしてこれらに関するニーズ,問題点等について解説された。
機器分析法の発展により、測定者は測定法に関する知識,熟練を必要とせずに容易に測定値得ることができるようになった。このことが逆に、分析値の信頼性について現場で分析に携わる技術者の関心を高めている。
会場は立ち見にとどまらず、場内に入りきれない参加者が出る程の盛況を呈した。
今回、本シンポジウムの三本柱の一つであるポスター発表は、全国の分析化学会会員のレベルに広げて行われた。これまで関東支部会員だけに限られていたものを全国レベルに広げたことにより、ポスター発表全体としてバランスがとれ充実を図ることができた。
全88件の発表のうち、関東支部以外の発表件数は東北支部6件,中部支部7件,近畿支部5件,中国支部3件,および九州支部3件となり、予想を越える参加を得た。コアタイム(12:00-14:00)を過ぎても、パネルの前で活発なディスカッションが続く光景が見られた。
今回、新たな試みとして「産官学共同研究のポイント」と題したA4一枚のポスターを発表パネルに加えて頂き、企業からの参加者がディスカッションしやすいように配慮した。
後日、他支部の発表者から『思いも寄らぬ企業との共同研究の話がまとまった』との連絡を頂いた。この試みが本シンポジウムの理念の達成に大いに寄与したように思われる。
東京討論会との合同開催という形をとったため、シンポジウム参加者だけの人数を確定することはできなかった。しかし、実際にシンポジウムの参加登録をした人数は2482人となり、登録をしないで入場した分を含めると参加人数は昨年とほぼ同程度となった。
会期中、京葉線が不通となるトラブルがあり、シンポジウム講演を30分繰り下げるという措置をとった。参加者数にも影響が出るものと懸念されたが、結果的に杞憂に終わり関係者をほっとさせた。
三回目を迎え本シンポジウムは「21世紀に向けて、大学・公的機関の研究者と産業界の研究者・技術者の交流する場」としてその地位を確立したように感じられる。特別講演をはじめとする全ての講演・発表を網羅した講演要旨集の販売総数は1194部となり、学生・講演者に配布したものを含めて総数約1500部以上が参加者の手に渡った。
最後に個人的なことで恐縮ではあるが、ユーザーとして分析機器展に来場した卒業生から声を掛けられたり,華やかな機器展のブースで活躍している卒業生をみることができるのは、大学に身を置くものにとって無上の喜びである。
これも東京シンポジウムのおかげと感謝している。本シンポジウムが今後さらに発展することを願ってやま
ない。
上原伸夫(宇都宮大学工学部)
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