PITTCONに見る米国巨大展示会/学会裏事情
(日立製作所)久本 泰秀
1.はじめに
1997、98、99年と3年続けてPITTCONを調査する機会を得、この展示会を通じて米国巨大展示会の1断面を垣間見たような気がしましたので、まとめてみました。
PITTCONは、50年前に、ピッツバーグカンファレンスとして誕生して、10年前位から通称のPITTCONを正式名称にしています。主に分析機器、計測機器及びその周辺機器の展示会と化学会、分析化学会が併催されており、日本の分析機器展の5倍の規模があります。
医療の分野では、(JMCP:日本医用画像展/日本放射線医学会)と(RSNA:北米放射線医学会/医用放射線機器展)が同様の関係かと思われます。
ここでは、米国内にある、5個所とも、8個所とも言われる巨大コンベンションセンターで開催される巨大展示会/学会の意外な側面と裏事情をPITTCONを中心に、ご紹介してみたいと思います。
2.米国巨大展示会/学会開催施設及び開催事情
PITTCONは50年前に誕生し、当初は、クリ-ブランド、アトランチックシテイーを本拠にする時代が続きました。その後、だんだん巨大になってきてからは、ニューヨーク、シカゴ、ニューオーリンズ、アトランタを転々としています。
それは、各コンヴェンションセンターが幕張メッセの約2倍の建物、施設があり、学会も開催出来る教室が50から100部屋もあり、また何万人もの宿泊、交通利便等が整っていたからです。
米国では、このような巨大施設が次々と建設されてきて、現在では、アトランテイックシッテイ、ニューヨーク、ラスベガス、ロスアンジェルス、ニューオーリンズ、アトランタ、そして、98年からオープンしたオーランド等があります。結果的に、新しく建設された後の3都市が、南部に位置していて、11月から4月の時期、気候が温暖で、主催者に歓迎されていると言えます。
また、施設借用費やホテル代も南部へ行く程安価なようです。
米国は、巨大な開かれた市場を背景に、世界中の商品を米国のユーザーにPRする場が必要と言う事情があります。しかしハイテク分野では、PITTCONやRSMAに見られる如く学会や技術発表会と併設されており、いわゆる最新技術情報収集の場としての機能が付加されています。
米国の大学がいわゆる最先端技術についてオリジナリテイのある研究でリーダーシップを取っているケースが多い事は周知ですが、機器開発関連のテーマについても、掘り下げて、メーカーと共同研究をしたり、アプリケーション技術にもオリジナリテイを発揮しています。勿論、米国メーカーによる展示品にもその先見性が生かされているものがあるとの事で、世界中から専門家を集める事に貢献しています。
しかし、これらの巨大展示会/学会の運営母体はどうかと言うと、質素、地道と言うか、真面目と言うか意外な側面が見えてきました。
4.PITTCONの生い立ちと運営
PITTCONは、1949年、ピッツバーグ界隈の有志が集まり、地域振興の意味もあって、その一人がガレージを事務所として提供し、スタートしました。最近の組織では、ピッツバーグ近郊の約100名のボランテイアの常時スタッフと10名の有給事務局員が1年かけて準備しています。毎週のように27の委員会がピッツバーグ界隈で、開催されるので、近郊在住でないと参加できません。その他約200名の期間中ボランティアスタッフが登録されています。彼等は常時スタッフの家族やピッツバーグから他所へ転居した人も含まれていて、年に1回の期間中に全て犠牲にして馳せ参じます。
スタッフにはピッツバーグ市周辺の科学者(分析化学会、化学会)が上記スタッフに入っており、地域の民間会社のスタッフと共にボランテイアで支えています。メンバーは10年20年スタッフとして働き続けている人が多く、会長は3年前に指名され、前2代のやり方を見ながら自分の年度に向けて準備します。
ボランテイアスタッフには、交通費、宿泊費、食費は支給されますが、日当は一切でません。この組織を通じて社会貢献できることに価値を見出しているのです。また、リタイアの活用が上手で、80才近い15年前に会長を歴任した人が展示場の案内係をしたり、大学OBが、中学生の科学実験指導のアイデイアをまとめたり、関係者でリタイアした人の有効活用をしています。また本人もできる範囲での貢献を上手にしています。
スタッフが最も気を使っているのは、学会と展示会のバランスです。学会は真面目にやりすぎて肥大化することもあり、長い目ではとにかくバランスが大切とのことです。時代を先取りしたテーマとか、口頭発表とポスターの配分とか、展示会を考慮した時間配分も必要とのことでした。
5.米国商務省のベンチャー企業振興策
今回、特に印象に残ったことは、米国のベンチャー企業振興と言うテーマについてであります。出展している1000社以上がいわゆるベンチャー小企業で、展示会には、種々の歓迎企画がありました。企業間の仲介コーナーでは、M&Aや販売協力の相談も受け付けており、さらには求職、求人の紹介も大きな独立した部屋を準備して、大々的に行っていました。昨年の出展企業の少なくとも100社は吸収、合併等で変化しており、今年はさらに100社以上の新規ベンチャー企業が出品しているとのことでした。驚いたことは、5人もの米国商務省の中小企業振興担当者が、会場内にある国際ビジネス室に期間中ずっとつめており、企業情報の収集のみならず国の金でベンチャー企業のPRをしたり、輸出の相談や具体的なバックアップをしていたことです。規制緩和を目指すべきで、国があまり民間振興に関与すべきでないとの意見もあるとは思いますが、これほど木目細かな、泥を被る仕事まで積極的に推進している所を見せ付けられて、いわゆる公僕と言うか、企業を通じて国の繁栄を目指す米国のやり方の一面を垣間見たような気がしました。
6.おわりに
米国の好景気に支えられて巨大展示会は大繁盛と言うことが出来るかもしれません。しかし、PITTCONでは、このところ参加者減の兆候が出ています。幹部の方の話によると、今年は米国北部が異常気象だったために北部からの参加者が減ったとか、アジア、日本の不況でそれらの参加者が少ないとか、インターネットの普及も影響しているとか、言っていましたが、どうなんでしょうか?
RSNAのように11月のシカゴでずっと開催している展示会もありますが、PITTCONのように開催地を変えているケースもあり、聞く所によると、各都市からの誘致競争も加熱しているとのことです。そして、最新の設備を誇るオーランドが最も安いとのことで今後の展開が気になります。 PITTCONも今後数年は既に南部の会場を予約しているようですが、北部の会場からも戻ってくるようにとの働きかけがあるとのことです。
振り返って日本はどうかと言うと、幕張メッセも東京ビッグサイトもパシフィコ横浜も、このような学会を併設する展示会については、教室の数が少ない等、主催者としては種々の工夫が必要になります。まあ日本は余りアメリカ的に巨大化しないほうが良いのではないかとは感じていますが、皆様如何お考えでしょうか…。
―以上―