PITTCON98裏事情
久本 泰秀(日立製作所)
1. はじめに
日本分析化学会と日本分析機器工業会の共催により、毎年幕張メッセにおいて「分析機器展」及びこれと併設して「シンポジウム」が開催されているが、日本分析化学会関東支部と日本分析機器工業会ではこれらの一層の改善を模索して、分析機器展将来検討委員会を設置し、関連の展示会や学会の運営や背景、裏事情を調査している。
この度日本分析化学会の一員として、4人の委員(谷口:堀場製作所、村山:横河電機、伊藤:島津製作所、久本:日立製作所)が「PITTCON98」の開催されたニューオーリンズを訪問し、98年会長のS. L. Shockey氏をはじめ、多数の関係者との意見交換を行う事が出来た。来年その50周年を迎えるPITTCONの表面的な出席だけからでは計り知られていないその成功の裏事情をご報告してみたい。
2.PITTCON98の概要
(1) | 日時、期間:1998.3.1-5 (5日間) |
場所:米国ニューオーリンズコンベンションセンター | |
(2) | 登録者:例年3万人強でここ5年横ばい状況。出展関係者の登録が60%で過半。 |
(3) | 出展社数:約1500社 (内1000社強が所謂ベンチャー企業) |
(4) | Previous Symposia:Immunoassay/98,Laser in Chemistry/97,ISE/96 |
(5) | 来年度:1999年(50周年記念):1999.3.7-12、Orlando、FL |
2000年:2000.3.12-17、New Orleans,LA |
3.PITTCONの特記事項・裏情報
(1) | 出展費、参加費が安い:出展社、参加者へのサービスの基本と考えている。 |
1500$/コマ(6名登録可)、60$/予約参加者(5日間) | |
(2) | 会計方式:年度毎の決算で、約6M$の予算に余剰が出ると、学校や学会に寄付して残高を0にする。従って税金は支払っていない。 |
(3) | 組織:ピッツバーグ近郊の約100名のボランテイアの常時スタッフと10名の有給事務局員が1年かけて準備する。 毎週のように27の委員会がピッツバーグ界隈で開催されるので、近郊在住でないと参加できない。 その他約200名の期間中ボランテイアスタッフが登録されている。 彼らには常時スタッフの家族やピッツバーグから他所へ転居した人も含まれる。 |
(4) | スタッフ:ピッツバーグ市周辺の科学者(分析化学会、化学会)が上記スタッフに入っており、地域の民間会社のスタッフと共にボランティアで支えている。 メンバーは10年20年スタッフとして働き続けている人が多い。会長は3年前に指名され、前2代のやり方を見ながら自分の年度に向けて準備する。 |
(5) | ボランティアスタッフ:交通費、宿泊費、食費は支給されるが、日当は一切出ない。この組織を通じて社会貢献できることに価値を見出している。 |
(6) | リタイアの活用:80才近い15年前に会長を歴任した人が展示場の案内係をしたり、中学生の科学実験指導のアイデイアをまとめたり、関係者でリタイアした人の有効活用が上手だ。また本人もできる範囲での貢献を上手にしている。 |
(7) | 学会と展示会のバランス:学会は真面目にやりすぎて肥大化することもあり、長い目ではとにかくバランスが大切だ。口頭発表とポスターの配分とか、展示会を考慮した時間配分も必要とのことだ。 |
(8) | 寄付行為:将来の顧客でもある学校、学会への寄付は大切な行為であるとのスタンスだ。大都市の学校より地域の学校が喜ばれる。 |
(9) | アンケート:内部のアンケート、外部委託のアンケート等、将来のテーマまで参加者にアンケートしており、外部の評価、反応に神経を使っている。 |
(10) | おみやげ:1度PITTCONに参加した人が、また参加したくなるように、色々なおみやげを配っている。それらは、PRグッズとしても効果を期待されるものである。無料のバッグ(展示場の奥で配る)、マグカップ、ボールペン他と有料だが原価で安い帽子、Tシャツ、ジャンパー他がある。 |
(11) | ミキサー:会期中2回の無料のミキサーがある。初日ポスター会場でのビール、サンドウイッチ程度のミキサーと3日目のディキシーランドジャズバンドの入った懇親会だが、無料で質素がキーワードだ。 |
(12) | プレリミナリープログラムの送付:事前に5万通のダイレクトメールを出しており、3年前までの参加者には送付している由。内海外向けは20%前後。 |
(13) | ベンチャー企業歓迎:1000社以上がいわゆるベンチャー小企業で、種々の歓迎企画がある。企業間の仲介コーナーもあり、昨年参加企業の少なくとも100社は吸収、合併等で変化しており、今年はさらに100社以上の新規ベンチャー企業が出品しているとのことだ。 |
(14) | 教育講座:学生向け、小学校―大学先生向け、企業初心者向け等教育講座の充実に並々ならぬ力をいれている。中には子供の気を引く小道具を1年がかりで準備している。 |
4.まとめ
ピッツバーグの町の有志が始めたこのPITTCONは49年を経て世界1級の展示/学会に成長した。その間ずっとピッツバーグ界隈の数百人のボランテイアに支えられてその発展があった。
会長は毎年代って、企画内容や方針に変更はあるが、それをバックアップする運営や事務局には10年、20年のベテランがおり、プロ集団として沢山の委員会の切り盛りをしている。
儲けは一切出さずに単なる民間のボランテイア団体がここまで発展できたそのキーワードは勿論「ボランテイアとリタイアドの活用」だけではない。アメリカ国民の公正さ、懐の深さにあらためて心を奪われた1週間であった。
―以上―