(社) 日本分析化学会関東支部長
高田芳矩
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関東支部は、日本分析化学会が創立された4年後の1956年9月に設立されています。設立以来実施されている事業に、機器分析講習会があります。1958年1月に「第1回分析機器取扱講習会」としてスタートして、本年度で第44回を予定するにいたりました。設立48周年を迎える関東支部は、回数をつけずに行った年もありますので、ほぼ欠かさずにこの講習会を続けてこれたことになります。これも偏に会員諸氏のご支援の賜物とありがたく存じます。
この約50年間で、世の中が大きく変わりました。分析機器や分析方法の著しい発展は言うまでもありませんが、分析技術者も様変わりです。昔は、分析室には匠と呼ばれる分析の神様のような指導者がいて徒弟制度のように次々と後継者が育成されていたのです。意欲さえあれば、今で言うOJT的職場環境で十分な教育・訓練がなされ、一人前に躾られました。従って、分析値の質の管理やその保証は、分析屋は当然のこととして行っておりました。誰もが分析屋の出す分析結果を疑いもなく受け入れ、それを基に商品の評価や取引、安全性の判断あるいは研究開発計画が立案されていたのです。
ところが、世の中が高学歴社会になると、それでなくとも社会的地位の低かった叩上げの、分析の神様がその神通力を失い、新卒の修士や博士は言うことを聞かなくなる。OJT的職場環境の崩壊です。さらに、企業のリストラがそれに拍車をかけて、躾をする指導者が解雇の対象になり、職場にモラルがなくなる。仕事は増える一方で、熟練の技術者が消える。多忙を理由に自己啓発も行われず、技術伝承もなく、何も知らない、満足に教育訓練もされない。それでいて、社会的に重要な仕事を余儀なくされています。
この兆候は20数年前からありました。すなわち、1970年代になって日米で相次ぎ社会的に極めて重要なデータの捏造事件が発覚し、また、安全性試験に不正が続き、これが大きな社会問題に発展して、分析者が無条件で信頼される時代に終わりが告げられたのでした。これは、その後、OECDの Principles of GLPへと繋がり、OECD加盟国は人の安全と環境に関する測定に関しては自国の法律のなかに試験所(業務管理)規範を定めることとなりました。また、非強制的なISO/IEC 17025(JIS Q 17025)に基づく試験所認定制度の整備と国家間の相互認証へと発展しました。分析屋の出すデータは、法律や国際規格でたがをはめないと、信用できないと考えられるに至ったのです。
こういう状況下で、公的な機関が行う教育訓練の重要性は日々高まっております。関東 支部におきましても、世の中のニーズに応えるべく、昨年度からは、この機器分析講習会の3コースに加えて、実習を主にする環境分析基礎講座を新設いたしました。初年度は、入門コースのみでしたが、今後、(社)日本環境測定分析協会や(社)日本分析機器工業会という強力な共催者を得て、「分析機器コース」「有害有機物質分析コース」「生活環境項目コース」などと幅広く手がけ、ご期待に沿えるように頑張っていきます。
関東支部は、上記講習会ばかりではなく、地区部会・講演会、新年懇親会、支部ニュースの発行、3月に開催される懇話会、また、昨年度まで6年間にわたり分析展に併設してきました東京シンポジウムは本年度からは本部主催の東京コンファレンスとして生まれ変わりましたが、これに対する協力など、支部会員とのコミュニケーションの場を種々持っております。また、高速液体クロマトグラフィハンドブックなど出版事業も行い、日常業務のお手伝いをしております。今後とも、会員相互の研鑚の場として、また、情報収集あるいは教育訓練の場としてもご活用していただければありがたく存じます。