CIA99に見るシンガポール展示会事情
(CIA:アジア化学・計測・分析機器展)
日本分析機器工業会技術委員会 委員長
分析化学東京シンポジウム運営委員
久本 泰秀(日立製作所)
1.はじめに
1999年11月30日〜12月3日、シンガポール国際コンベンションセンターで開催された「CIA99」と併催された「環境管理機器・システム展」、「水制御機器・システム展」を調査見学する機会を得たので、以下はその報告と印象である。
2.シンガポール展示会の背景
人口300万人のシンガポールは、地の利と英語国の有利さを生かし、東南アジアの中心となり、国際展示会、国際学会等の開催を重要な産業と位置付ける政策を取っている。
設備としては、これまで主に使われていたワールドトレードセンターに加えて、97年には今回使われたコンベンションセンター、98年には空港の近くにシンガポールエキスポセンターがそれぞれ幕張メッセを小ぶりにした最新式の建築で完成している。
また、通称「呼び屋」とも言われる企画運営会社は、大手は3社あり、競合して各センターの空室を埋める仕事に忙殺されているとの事である。
3.大手「呼び屋」の実態とアクテイビテイ
CIAを20年前から企画運営しているSES(Singapore Exhibition Service PteLtd)は、大手とは言え正社員50名強の会社である。年間20件位の大型展示会を企画運営しているが、そのアクテイビテイに感心させられた。
CIA99の開会式には、シンガポール環境庁長官と計測制御学会長が挨拶していたが、政府や学会からの知的援助を得るだけでなく、SES自身が国際会議、展示会に相応しい出展社や参加者を集めるために異常なほどの努力をしていることである。
世界に20ヶ所もの支部、代理店を持ち出展依頼の営業から参加者のDM名簿の作成、関連情報の収集まで行っている。
会場には、USAパビリオン、オーストラリア、UK,韓国等の国のコーナーが目立っていたが、それらは、各国の中小企業をまとめて出展してもらう努力の賜物である。
CIA99では、毎日A4、8ページのCIAニュースを出しているが、これにも、その積極的姿勢を見ることができる。少ない陣容で、効率的に良くやっているとの印象だ。
4.CIA99の概要
4-1 このCIA99は、5展示会の合同の名称である。それぞれ若干の補足を試みたい。
(1) ChemAsia99:The 11th Asian International Chemical & Process Engineering
and Contracting Exhibition:国策として推進している石油化学プラント建設をバックアップする意味もあり、エンジニアリングを中心に20年前にスタートしたものである。
(2) InstrumentAsia99:The 9th Asian International Instrumentation Control
Measurement & Testing Exhibition and Conference:日本の計測展と同等で16年前に上記石油化学関連の計測機器を中心にスタートし、発展してきた。
(3) AnaLabAsia99:The 7th Asian International Laboratory & Analytical
Technology & Equipment Exhibition:12年前から始まり、分析機器展と同等である。 1995年までは、PE、HP、島津、日立も出展していたが、97年のアジア金融危機の際に出展を取りやめた。99年は島津が環境のブースに1小間展示している。
(4) ENVIRONMEXASIA99:The 5th Asian International Environmental Management
Technology, Equipment & Control Systems Exhibition & Conference:8年前から、環境をキーワードにして関連の展示会を併設した。
(5) WATERMEX99:The 5th Asian International Water Management Technology,
Equipment & Control Systems Exhibition & Conference:シンガポールは水を自給出来ずにマレーシアから大部分を輸入し、また処理して飲料水を輸出している。それらを踏まえて、水をキーワードとして関連の展示会を開始したものである。
4-2 CIA99の出展参加状況
CIA99の出展社数は、927社でほぼ例年並である。参加登録人数は、95年:21000人、97年:金融危機で10000人に激減したが、99年:16000人だったとの由、97年を超えた。その内シンガポール以外の外国人が32%である。
ところが、ブースの説明者に聞くと、マレーシア、インドネシア、タイ、インド、バングラ、ベトナム等の外国人が半分以上または80%以上と答えた方が多かった。
それは、外国からの参加者が真剣に購入やビジネスの情報を収集するために来ているからであろう。
小間代が約5000S$(約33万円)/3m×3mで、分析機器展の27万円と較べても少々高いために小間数を減らしたり、目先の受注に結びつかないとして出展を見合わせたりしている例がある中で、欧米メーカーの強気が目立っている。
4-3 併設カンファレンスの状況
テクニカルシンポジウムは、展示場の下の階の教室で行われていた。数は数10件で多くはないが、200S$(約13,000円)の参加料にもかかわらず、環境関連のテーマには多くの参加があった。
JETROは、このCIA99に協力して同じ教室で、JETRO SEMINARと称し、栗田工業OBの講師による水処理関連の講演を無料で開催し、200名の参加があった。JETROシンガポール所長の長い挨拶でも述べられていたが、最近は、技術移転と輸入促進に力を入れているとの事である。
5.分析機器関連会社の動向
一番目立ったのは、ThermoGroupである。3小間には、GC/MS/MS等6台を実機展示し、英国、フランスの技術者も動員し、出展して成功であったと繰り返していた。
JAIMA、北京の展示会と共に重要展示会と位置付けているそうだ。日本のメーカーでは、堀場、日本分光、島津、ジーエル、東亜電波、京都電子、ダイヤインスツルメンツ等が出展しており、今回は、入場者も多く、いずれも好印象を得ていたようだ。
計測関連では、横河電機、北辰がかなり大きな小間を取っており、エンジニアリング関連では、日立プラント建設が目立っていた。
蛇足だが、日立製作所は半導体の工場をシンガポール郊外に持っており、それなりの寄付や貢献をしたせいか、オーチャードロードの街灯毎に、控えめな「HITACHI」の看板が沢山見受けられた。
6.日本分析機器工業会の今後の対応
SESのTan社長との会談では、JAIMAに、日本の中小分析機器メーカーをまとめて出展してくれないかと頼まれた。今回ヒアリングした英国、米国、オーストラリアでは、CIAが東南アジア進出の最も重要な展示会として位置付けられていて、国が補助金をだして応援している。JAIMAとしても何らかの対応を模索してみる価値があると思う。
7.まとめ
世界的には、米国のPITTCON、独国のアナリチカ、アヘマが不動のものだが、CIAが今後共東南アジアの中心になってそれなりの地歩を築けるかどうか、そして世界の出展社とアジアの参加者に評価されるか良く見極める必要がある。
唯、地理的優位さ、英語国の有利さもあり、周辺国からの参加は意外に多いとの印象だ。余程のことがない限り2001年のCIAは、今年以上の規模を予想しても良いのではないだろうか。
分析機器工業会の会員各社も、現在は小さいが今後の伸長が期待される東南アジア市場を欧米メーカーに独占されて良いわけはないと思う。