日 本 分 析 化 学 会
関 東 支 部 ニ ュ ー ス
第  9  号

1998.9.20発行
発行者:日本分析化学会関東支部

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暑く燃える
 毎年のように夏になると、甲子園の高校野球がマスコミを騒がせ、多くの人々が関心を持ち、電力事情はクーラとテレビの利用で最悪の状態に陥ってしまう。 その前は、フランスでのサッカーのワールドカップで、夜遅くまでときには朝早くから衛星テレビを見て、国民全てがサッカーの話題一色になっていた。 更にその前冬になると、長野の冬季オリンピックで前評判は余りよくなかったけれど、いざ始まるとスケートやスキーのモーグル、ジャンプでメダルを獲得してくると、全ての種目にメダルの期待が膨らみ、テレビや新聞を見ないではいられなかった。
 マスコミはこのようなイベントに、国民の関心が非常にうまく集るように情報を流し、結果的にイベントの成功を支援している。また、このような支援のため、スポーツを行っている選手の技能の向上は勿論のこと選手の数も急激に増加している。
 この話題性が高いスポーツを我が日本分析化学会に置き換えてみよう。国民全てとはいかなくても会員全てがフィーバするようなイベントがあるだろうか。半年に1回ずつ来る年会と討論会がこれに相当するだろう。 現在、会員数は法人会員を含めて約9000人であるが、年会で多くて約1500人程度である。フィーバーするにはもっと多くの参加が望まれる。 野球フアンやサッカーファンでなくても、国民全体が熱狂的になると同様に、分析を少しでも携わっている者が、年会や討論会になると是非参加したいと思うようになるにはどうすればよいだろうか。マスコミに相当する情報の提供は、毎月の機関誌(論文誌を含めて)だけで十分であろうか。 最近は、ホームページで少しずつ情報を流しているが、まだまだ内容や情報量に不足している。年会や討論会の運営は各支部に任され、いろいろ工夫し、シンポジウムや特別講演等が企画されているが、大枠はあまり変更無く企画されているので、今一歩である。
 最近の分析化学の傾向として、旧来の湿式分析だけで終わるのではなく、必ず最新の分析機器が使用されている。そのため分析機器は分析者のニーズに応えるように、日進月歩開発され、少量試料で高感度に測定されるとともにビジュアル化した結果が得られるようになっている。 そのため、分析者は最新の分析機器の動向をいち早く知ろうと、日本分析工業会主催の分析機器展に毎年約数10000人が集まってくる。 1997年に本学会の関東支部の主催で、第1回分析化学東京シンポジウムを分析機器展と同時に開催したところ、約30000人の分析機器展の参加者のうち10%の約3000人が分析化学東京シンポジウムの方に参加した。年会の人数の2倍である。 このように分析化学に携わる者が集まり、情報交換する場を関東支部だけが独占してよいものだろうか。人が多く集まることで熱気が溢れ、活発な交流が図れる。多くの人の前の発表では、緊張も新しい活力に結びついていく。
 日本分析化学会がより活性化するには、会員一人一人の活力は勿論のこと、各会員が学会の行事等に参加する自覚が必要かもしれない。そのための場作りを学会はしなければならない。

(社)日本分析化学会 関東支部長 平井昭司


日本分析化学会の発展を願う!
 今年の4月に本学会の事務局長に就任しました新入社員の小野と申します。この紙面をお借りしてご挨拶できる機会を得ましてたいへん光栄です。 30数年間も民間会社の化学分析、機器分析の研究者であった自分が、最初は研究業務から離れる寂しさ、何とはなしの不安、皆さんもこの気持ち理解していただけると思います。しかし、すでに数ヶ月が過ぎ、結構キツイ民間会社の研究業務からの解放感とは裏腹に、新たな事務職としての試練に立たされている今日この頃です。
 思い起こせば、私が本学会の会員になったのは30余年前ですが、処女講演を慶応大学で確か、「鉄鋼中の微量Cr定量の研究で、刺激臭の強いイソアミルアルコールを用いる新抽出吸光光度法の開発」を発表したことは何故か鮮明に記憶しております。 関東支部の幹事や常任幹事を経て、その後民間代表的な意味の名誉ある副支部長の大役も皆様のおかげで無事卒業できました。その後、突如本部の主務理事のお役目を仰せつかり、本学会との縁が切っても切れないものとなったわけです。
 さて、話は変わりますが、現在の本学会は経営面を含めて非常に厳しい状況におかれております。 現在の広範で活発な活動を犠牲にしたくはありません。そこで、新たな発想による会員拡充を強力に進め、社会貢献をにらんだ新規収益事業の推進(標準物質の開発と販売、高い視野でのセミナー・講習会の企画、試験所認定における技能試験や企業内教育への参画など)、あるいは学会組織・事務局体制の見直しと近代化などに挑戦し、今後とも発展の可能性が見える学会への構築に全力を投入したいと考えております。 そのためには、本学会の半数の会員を抱える関東支部の皆様のご理解とご協力なしには行うことが困難です。お堅い話になってしまいましたが、この恐れを知らぬ新米事務局長にどうかご支援をよろしくお願いいたします。率直なコメントをお聞かせ下さい。

E-mail: aono@mtg.biglobe.ne.jp Fax: 03-3490-3572
(社)日本分析化学会 新米事務局長 小野昭紘


熱く燃える学会活動日本分析化学会の発展を願う!

特集:未来に想うこと・・

「有機微量分析の分野における分析技術の継承」
元理化学研究所   吉田 睦子
「「ぶんせき」が「ぶんせき」をしています」
(社)埼玉県環境検査研究協会   広瀬 一豊
「分析をするということ」
成蹊大学名誉教授   飯田 芳男
第39回機器分析講習会
関東支部ホームページより
「関東支部ウェブサイトの発足と現状」
第21回分析化学若手交流会
第2回分析化学シンポジウム
お知らせ・・CITAC’99事務局より
編集後記

トップ


特集:未来に想うこと



有機微量分析の分野における分析技術の継承      元理化学研究所 吉田睦子

 筆者が主として携わってきた有機微量分析の分野では、最も重要である炭素、水素、窒素分析に関して数種の自動分析計が急速に普及し、誰でも一応の定量結果が迅速に得られるようになってきた。そのため、1970年以前に主流であった重量法や容量法を用いる方法は、煩雑な操作と熟練を要することや非能率的である等の理由で次第に用いられなくなった。 日本分析化学会の分科会の一つである有機微量分析研究懇談会の調査(1995)によると、炭素、水素、窒素分析を行っている分析者の95%以上がいわゆるCHN自動分析計を使用している。 Pregl法やDumas法のような古典的な方法に要した基礎知識やこまかい分析技術は素通りしても、試料量を入力してスタートボタンを押せば、数分後には定量結果がプリントアウトされてくる。
 しかしながら、これらの分析計は、常に精度良く正確な値を出すように管理する必要があり、当然困難な問題につきあたるが、古典的な方法の時代から連綿と積み重ねられてきた知見と分析技術の継承が解決の鍵になることが多い。 有機微量分析の分野では、他の分析分野に比較して精度と正確さがより厳しく要求されてきたが、問題解決の議論の場としてすでに1953年から上述の懇談会が発足した。当時の草分け時代に活躍された大先輩の方々の多くが現在も情熱を傾けて現役でおられ、後輩はその恩恵に浴している。 今年(1998)は65回目のシンポジウムが開催されている。一つの分野に関して45年の長きにわたって研究会が続くことがまさにこの分野の特徴であり、技術の継承がそれほどに要求されていることを示している。
 一方、この分野の社会的情勢として、分析計の自動化による分析担当者の減員化、研究偏重による分析室の縮小、極端には分析室を無くしてしまう例が増加し、大学卒業後間もない人がひとりで担当させられることも多くなった。 その結果、技術の継承はないがしろにされ、問題の生じた時に解決の手がかりが無く困っている担当者が多くなった。  このような社会的背景のもとに、有志の人達が集まって「元素分析技術研究会」という研究会が東京を中心にして1986年に生まれた。これは、公的な組織ではなく、上述した「有機微量分析研究懇談会」との縦の関係もなく、いわば同好会的集団であるが、双方の会に所属する会員も多く、情報の交換は自ずと行われている。 阪本秀策先生の主催されてきた阪本ゼミも主要な母体のひとつであるが、筆者も誘われて数年間運営に参加させていただいた。経費は会員個人の持ちよりが主であるから十分な余裕はないが、どこからも制約をうけない。運営委員も二年交替で偏りのない運営を行うようにしているが、構成委員の独自性が発揮できて面白い企画も生まれている。一年に一回の集会には毎回70〜80人の参加があり、その中で共通の問題を核にグループを作り、共同実験を行って問題を解決した例もでてきた。研究中心になっている懇談会では拾えない分析技術の情報交換などが熱心に行われており、一つの役割は果たしていると思う。
 これからも若い会員がどんどん増えて、「技術研究会」「懇談会」「日本分析化学会」という双方向の交流が盛んになることを期待する。ちなみに、関西では、一足先の1981年に「有機微量分析ミニサロン」が発足しており、独自な運営がされているが、関東と関西の交流も行われている様子で、こういった公的組織ではない研究会の役割は見逃せない。
 筆者は1997年3月に定年となり、理化学研究所の分析研究室を去ってから一年半になる。退職を機に、これまで行ってきたことを含めて、すべてに束縛されることなくこれからの方向を考え直そうと思っていたが、退職と時を同じくして老親の在宅介護が全面的に必要になった。 種々な面で制約をうけるので、当分の間は目の前の介護の問題に専念することにしたが、家の中からパソコンを窓口にして分析の情報を集めたいと現在準備中である。


「ぶんせき」が「ぶんせき」をしています   (社)埼玉県環境検査研究協会 広瀬 一豊

 人生模様は縦糸と横糸とで織り成されるといわれる。縦糸とは古今東西を通じて流れる宇宙の哲理であり、横糸は社会や家庭での日常の暮らしであると聞いた。 重力の作用によって物が落ちるのも、遺伝子によって遺伝情報が伝わるのも、生まれたら必ず死ぬもの、嫌なやつだと思えば相手も同じような感じを持つのも、宇宙の摂理の一つの姿であり、これは不変のものである。 その縦糸に、我々は日常の営みという横糸を絡ませて自分の人生模様を織り上げていき、さらに今後も織り続けていくわけであるが、どのような織物が出来上がるかは、縦糸をどのように理解し、その理解の上に立ってどのように横糸を絡ませるかにかかってくる。
 分析の仕事は、元(株)ジャパンエナジー分析センターの中村靖氏によれば(1997.7.18、第3回分析信頼性セミナー)以下のように分類されるという。
(1) 工程管理のための分析
(2) 原料、製品などの取引に関係する分析
(3) 工程管理以外の臨時の分析
(4) 環境管理のための分析
(5) クレーム処理のための分析
(6) 研究開発に伴う試料の分析
(7) 分析方法開発のための分析
自分の業務がどれに該当するか、そしてそれをどのようにこなして自分好みの織物に仕立てていくのか、それが問題なのである。

仕事が仕事をしています/仕事は毎日元気です
出来ないことのない仕事/どんなことでも仕事はします
いやなことでも仕事はします/仕事の一番好きなのは
苦しむことが好きなのだ/苦しいことは仕事に任せ
さあさ吾等は楽しみましょう

 これは民芸の大家、河合寛次郎氏の「仕事の歌」である。ここでは仕事をするということについて、一つの織物が織られている。 分析の業務にこれを当てはめるとどういうことになるのか、表題に書いたように「ぶんせき」が「ぶんせき」をしますとういことになるわけであるけれど、これが何を意味するのか、乏しい知恵を絞ってみた。  クロマトでの分離というプロセス、分析者がピンセットを持って分子を選り分けているわけではない。吸着力の差だとか、分子サイズによる排除だとか、その他の基本的性質の差−大袈裟な言い方をすれば宇宙の摂理−が働いてクロマト分離ができるのである。 質量分析、結合はボンドのエネルギーの大小などのルールに従って開裂するのであって、ここでも作業者がハサミで結合をひとつひとつ切断しているわけではない。
 このように考えてみると、「ぶんせき」が「ぶんせき」をしていますという言葉もなんとなく分かったような気持ちもするし、

苦しいことは仕事にまかせ/さあさ吾等は楽しみましょう

という言葉の中にほのぼのとした温かさがあることが感じられるように思うのであるが、どうであろうか。 これは、自我の世界から他力の世界、生かされている世界へと自分の意識を変えることであり、そこに安らぎの世界があるということである。
 経済不況からの脱却が求められているが、いずれにしてもかつてのような劇的な経済成長は望むべくもない。そのような中でわれわれの生の豊かさを支えるものは精神的な豊穣であろう。
 陶芸に徹すれば

仕事が仕事をしています/仕事は毎日元気です
苦しいことは仕事に任せ/さあさ吾等は楽しみましょう

という境地にまで到達できるのであろう。
 ぶんせきに徹すれば

ぶんせきがぶんせきをしています/ぶんせきは毎日元気です
苦しいことはぶんせきに任せ/さあさ吾等は楽しみましょう

このような境地にまで到達できるならばそこに精神的豊穣があるということになるはずである。
 このようなわけの分からぬ夢のようなことを書いて、執筆を依頼された幹事さんへの責めを果たしたいと思います。


分析をするということ             成蹊大学名誉教授  飯 田 芳 男

 日頃、若い方々の活躍ぶりや優れた研究論文を目のあたりにして、いまさら後輩の方々にお役に立つ話もありませんので、いただいたテーマとは少し異なるかもしれませんがとりとめのないことを書かせていただき、責めをふさぎたいと思います。
1.分析値の信頼性について
最近、分析値の信頼性について国際的にも国内的にもいろいろ議論がなされている。
 これについては一家言あるが、それはさておき、40年近く分析の研究や実際試料の分析に携わっていた私にとって自信のあるデータを出した経験は極めて乏しい。サンプリングは正しかったか、この操作でロスが起こらなかったか・・・など考えれば考えるほど 心配の種は尽きない。 勿論、添加実験をやったり、トレースアナリシスではアイソトープを用いたりして、分離の際のロスやコンタミに気を付け空試験をどうやるのかで悩んだり、まあ実試料の分析なんてやらない方が精神衛生上よいとも思ったりする。
 鉄鋼標準試料の標準値決定やNBS(現NIST)のクロスチェックなどにも参加したが、幸いいつも概ね平均値に近い値であった(だからといって正しいという保証はない)。 鉄鋼では今のように統計処理をやらない頃で、大先生が「○○さんのところは少し高いですね」などとといわれ、次の会合では多くの場合「ちょっと操作ミスがありまして・・・」と平均値に近い値に直されることが多かった。やがて分析値のバラツキは小さくなり、これを単純平均として標準値なるものを決定した。 戦後間もない頃のことでのどかな時代であった。今の様に実験を3回だけ繰り返し情け容赦なく異常値を棄却するなどのことはしなかった。日本では全て公定法(JIS)で分析しているが、NBSでは各機関が最も得意とする方法で分析し、これを平均していた。この方がより真値に近い値が出るのにと思ったりしたが、後年、よりよい分析値が出るようJIS法の制定に関わることになり、今日に至っている。  最近はコンピュータで多くの分析データを処理して、あたかも真値であるかのごとき錯覚に陥ることもあるのではないだろうか。
 私の住んでいる近くの自治体焼却炉の1つで排ガス中ダイオキシン類が12400ngTEQ/m3という驚異的なデータが出た。前、前々年とも約2000であり、もう1か所の炉もこの時だけは従来より数倍高い値であった。 当然、前のデータとの比較や、再分析するべきであったが、業者も依頼主の自治体もそのままにし、最近この事実がわかった時は既に評価は不可能であった。コンピュータ処理の機器分析でも入力ミスなどでしばしば整数倍で分析値を間違うこともあり得ることを民間分析機関の方々に申し上げておきたい。
2.分析技術者は化学の基礎を勉強する必要はないか?
 最近聞いた話。ある分析の資格試験では分析に関する科目の他に化学の基礎に関する科目もあるらしい。ところが「分析技術者は熱力学、高分子、有機化学などの基礎知識は必要ない」との意見があるのだそうだ。 分析機器が高度化され、コンピュータ制御になった今日では、分析の知識なしにデータが得られる時代であるが、サンプリングや前処理、また結果の評価を行う場合にも化学等の基礎知識は大いに必要であり、装置性能が向上すればするほどこのことは大切であると考えるのだが。 「ボタン1つでデータが出るから誰でも使える」とメーカーがPRするのを鵜呑みしてはいけない。
3.分析用語の誤訳について
 分析学会の出版物でもしばしば「質量作用の法則」、「ホールピペット」なる用語を用いているがこれは誤訳に基づくものである。 「質量作用」は mass actionの訳であるが massは質量でなく、mass production の massと同様、大量の、という意味。action は reaction、化学反応の意味で、強いて言えば「大量反応の法則」、即ち分子1個や2個では成立しないが反応系の化学種が大量にある時成立つ法則である。 また後者は英語では full pipet(又はtransfer pipet)、 独語では vollpipette、 そのカナ書きはフルピペット又はホルピペットで、ホール(whole)とはいわない。日本では全量(又は全容)ピペットいう。 これも誤訳の一つである。もう一つあるがご存じでしょうか。以上は博識の武藤義一先生から伺ったこと。この件はこれで次世代の方に申し送りが済んだ。なお、誤訳ではないが、最近の「環境ホルモン」はもっとよい用語はないものだろうか。
 紙数が尽きたので、皆様のご発展を祈りつつ、この辺で終わりにします。



第39回分析機器講習会

 恒例の関東支部主催の機器分析講習会が今年も6月から8月にかけて、3コースに分かれて実施されました。今回で39回という伝統のある講習会ですが、昨年度の実行委員長の黒沢さんからの的確な申し送りがありスムーズに今年度の打ち合わせに入ることができました。 今年度は有機組成分析のコースを3年ぶりに表面分析のコースへ変更したことと、HPLCのコースは昨年度はキャピラリーカラムを含む4日間コースでしたが参加者より長すぎるとのコメントがあり、今年は3日コースとしました。
 例年人気のあるICP発光分析、ICP質量分析は今年もセイコー電子工業さんの会場をお借りして約60名の参加者を得て無事に終了しました。HPLCのコースは今年も東京理科大学で実施いたしました。 今年は不況の影響で当初HPLCの参加者希望者が少なく心配しましたが、最終的には約50名の参加者が集まりほっとしました。表面分析のコースは講義を日産横浜ビル、実習はアルバックファイ社で32名の参加者で実施いたしました。表面分析の開催時期が8月末になった影響で当初の予定よりやや少ない参加者でした。 弊社からも各コースへ1〜2名参加させましたがハイレベルな講師陣による講義の内容が充実しており、さらに最新の装置による実用的な実習があり非常に参考になったと言っておりました。関東支部としてはこれからも受講生の立場に立った講習会の伝統をさらに充実させて確実に発展させて行くことが期待されていると思います。
 最後に、ご指導いただいた平井支部長、コーデイネイターとして、全力を傾注していただいた東京理科大学薬学部長中村先生(HPLC)、国立資源環境研田尾主任研究員(ICP,ICP−MS)、日産アーク志智室長(表面分析)の皆様、熱心な講義をして頂いた講師の諸先生に心より感謝申し上げます。又講義、実習の場所を提供して頂き様々な御協力をいただいた東京理科大学、セイコー電子工業、 日産、アルバックファイの関係者の皆様にも深く御礼申し上げます。

鋼管計測(株)分析センター
石橋耀一


第一コース:ICP発光分析・ICP質量分析の基礎と実際
 誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法やICP質量分析法は、半導体や高純度試薬などの先端材料や環境・生体試料などの分析法として、急速に普及しています。 第一コースでは主に初心者の方を対象に、第一線で分析に携わっている先生方の講義と分析機器を用いた実習により、両分析法の基礎と実際が体得できること、また、初心者だけでなく、現場で分析にお困りの方にも直接先生方に相談することにより、分析ノウハウが習得できることを目指しています。簡単に今年のプログラムをご紹介しますと、
(1)測定原理と最近の進歩 (資源環境技術総合研究所 田尾博明)
(2)半導体・セラミックスの分析 (東芝 岡田章)
(3)環境・生体試料の分析 (国立環境研究所 田中敦)
(4)超純水・高純度試薬の分析 (多摩化学工業 赤羽勤子)
(5)高純度金属の分析 (ジャパンエナジー 川田哲)
(6)有機溶媒・油試料の分析 (帝国石油 中山克義)
またこの他にも、イオン交換カラム法や有機溶媒抽出法などの試料前処理法の実習を行いました。不況で研修の予算がカットされる中でも、毎年定員(40名)をオーバーする応募があるのは、先生方の熱心な指導と、装置・会場を提供していただいているセイコーインスツルメンツの御協力の賜物だと思います。 このコースは以前にICP発光分析法を中心に行ってきたものを一旦休止した後、一昨年よりICP-MSを取り込んで再開したものです。来年で4年連続になりますので、心機一転、新しい発想で内容をより充実していただけたらと希望しております。

資源環境技術総合研究所 田尾博明


第2コース:高速液体クロマトグラフィーの基礎と実際
 第2コースは6月15〜17日にかけて東京理科大にて行われました。 中村洋氏(東理大薬)を中心に、渋川雅美氏(日大生産工)、西川隆氏(北里大医)、岩岡貞樹氏(三共)、二村典行氏(北里大薬)、星野忠夫氏(慶大医)、土屋正彦氏(ジオクト)、富岡勝氏(日立)の各講師の先生方に講師をお願いし、(株)島津製作所、ジーエルサイエンス(株)、東ソー(株)、日本ダイオネクス(株)、日本分光(株)、日製産業(株)、(株)日立製作所、(株)ユニフレックス各社の機器提供をいただき、実習を含めてHPLCの基礎から応用までを一貫して行い成功時に終了しました。

(株)日産アーク 表面分析研究室 志智 雄之


第3コース:最新機器を用いた実務者のための表面分析講座
 第3コースは8月25〜26日に日産横浜ビル会議室を使っての講義とアルバック・ファイ(株)での実習の2日コースで行われました。
 講義は始めに二瓶好正氏(東大生研)から表面分析法概論と題して分析法の概要と各分析法の特徴、分類を中心に講義していただき、その後、分析対象材料を有機、無機、金属、電子材料の4分野に分け、三木哲郎氏(帝人)、田沼繁夫氏(ジャパンエナジー分析センター)、橋本哲氏(鋼管計測)、鈴木峰晴氏(NTT-AT)という各分野の企業での実務分析者の先生方に実際の分析例や分析上の注意点など実務者の知りたい内容について講義していただき、最後に総合討論として全体にわたる質疑討論を行いました。  2日目はアルバック・ファイ(株)のご協力のもと、午前中はオージェ電子分光分析装置(FE-AES)、X線光電子分光分析装置(μ-XPS)、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)に関して、最新装置を用いて何処まで分析できるのかの説明と装置見学を行い、午後は事前に選択してもらった装置に関して前処理や分析時の注意点やノウハウ、測定法、データ解析法などについて実習を行いました。  参加者は夏休み開けすぐの週であったこともあり、34名と少なめではありましたが、アンケートによると「分析で悩んでいるところが聞けて良かった」「今まで何となくでやっていたことがなぜそうなのかがクリアになり良い勉強になった」「今後分析業務を行っていく上で大変参考になった」などの反響をいただきました。 表面分析に関しては実習を含めた講習会がほとんどないことから「実習を含めた実務者用の講習会を定期的に開催して欲しい」との声も聞かれましたが、「もっと分析事例を多くして欲しい」「データ解析の仕方についてもっと教えて欲しい」といった反響も聞かれ、コーディネーターとして「実務者のための」と唱った割に分析担当者が知りたいと思っている点への入り込みが少なかったと反省しています。
 分析化学会主催の講習会であることのと特徴を生かし、分析を実際に行なっている人を対象とし、知っていなければならない原理や理論などの基礎知識と測定法およびデータ解析のノウハウ的なもの中心とした実習を含めた講習会が望まれていると感じました。

(株)日産アーク 表面分析研究室 志智 雄之



関東支部ウェブサイトの発足と現状

 昨今のインターネットの普及に伴い、関東支部でもウェブサイト(URLはhttp://ana00.sc.niigata-u.jp/jsackanto/ いわゆるホームページのことだが、用語を正確に使うために「ウェブサイト」と呼ぶ。)を持ち、各種情報をインターネット上で発信することになった。ここでは、これまでの経緯と現状について紹介したい。
 インターネットを利用しての情報発信をしたいという願いが関東支部の幹部にいつ頃からあったのかは、筆者は知らない。その希望は、昨年東京大学で行われた秋の年会のプログラムを「ぶんせき」よりも早く公表したい、というかたちで筆者の知るところとなった。 もう少し主観的に書けば、平成9年度の第2回常任幹事会の後、ビールを飲ませて口説く、と云う行為であった。実際にその場にいた常任幹事の有志(支部長、副支部長の他数名)でいろいろと検討(ビールを飲みながらの雑談)後、本サーバーをどこに置くかといった、かなり重大な問題は今後検討することにして、取りあえずホームページの作成に取りかかった。
 当時の主な内容は、第46年会と第1回分析化学東京シンポジウムのプログラムであった。年会のプログラムは当初の目論見どおり「ぶんせき」より早く公開でき、NTTの新着情報にも投稿したりもしたが、実際のアクセスは少数で、知っている人しか知らないサイトであった。 その後、「分析化学若手交流会20年のあゆみ」や「関東支部ニュース」のバックナンバーなども掲載したが、1日のアクセスが5回を越えることは無く、如何にも「暫定的暫定版」と云った風情のまま、およそ10ヶ月が過ぎた。暫定的暫定版と似たような文句が並んでいたが、「暫定的」には本サーバーの場所が決まっていない、という意味があり、「暫定版」には関東支部で正式に認知されていない、という意味があった。
 今年度になって、本格的にウェブサイトの運営などを検討するための準備委員会が置かれ、何回かの委員会(たいていはメールのやりとり)の後、平成10年の第2回常任幹事会において「日本分析化学会関東支部ウェブサイトの運用に関する要項」が承認された。 翌日には「暫定版」の文字が消されたことは言うまでもない。また、正式なサイトになったのを機に、Yahoo!JAPANやCSJインデックスなどの検索サービスにも登録した。そのおかげか、1日のアクセス数も10回を越える日が多くなり、かなり賑わっているようである(この辺の様子は、アクセスログをご覧いただきたい)。
 現在のサイトの主な内容は、関東支部の各種事業の案内と申込フォーム(ネット上で申込ができるフォーム)を主体とする最新情報のサービスと、関東支部ニュースや若手交流会のあゆみといった資料のアーカイブであり、インターネットならでは、といったページが無い(もっとも、どういうページがインターネットならでは、なのか未だ分からないのだが)。 どんな情報をインターネットで公開していくのかについては、今後も常に検討していかなければならないだろう。また、本サーバーの場所も検討課題として残っている。これは、いかにも関東支部、といったURL(例えば、http://www.jsackanto.??.jp/)をつけるのか、分析化学会のサイトとどう関係していくかといった問題を含んでおり、経済的な問題とも関連してなかなか難しい。 さらに、会員によってネットワークに対するアクセスのし易さが非常に違う、という根本的な問題もある。
 今後どんなウェブサイトにしていくかという問題は、管理運営委員会を中心として検討していくにしても、関東支部会員皆様からの意見や提案を、ぜひお寄せいただきたい。

新潟大学 佐藤敬一



第21回分析化学若手交流会 おおわにセミナー』に参加して

 去る7月3〜5日、青森県大鰐町の「おおわに山荘」で開催された標記セミナーに参加した。冬はスキー場のこの地は涼しく、東京地方が30℃を優に超す猛暑を記録する中、快適に過ごせるところであった。参加者は学生を中心に59名と例年に比べて少なかったが、却ってこのことが例年以上に充実したセミナーとなったことに繋がったと思われる。
 関東地区からは、私の他に13名の参加があった。その中で、恒例の初日の自己紹介で東京薬科大の荒井健介先生のグループが、朝早くからマイカーを飛ばし、10時間近くをかけてご到着されたというのを聞き、いきなり「若手」のパワーを見せつけられた。
 夕食後、主幹事であられる東北支部・糠塚いそし先生を中心に今セミナーの目玉として企画された『イブニングセッション』を開始。これは、各参加者が表題や要旨を見て興味のある講演を選び、その講演者の元に数名ずつ集まって、本講演に先立ち内容について存分に議論するというものである。また、講演者側にとっても多少負荷がかかるのは否めないが、講演練習の場となる他に、自分の研究について改めて考えることができるなど得るものも多いであろうという狙いもある。当初は心配されたこの新企画も、フタを開ければ大成功。参加者にも大変好評で、中には予定時間を大幅に延長し、夜10時過ぎまで熱い討論を続けたグループもあったようである。時間や場所の制約がある以上、参加人数などを十分に考慮した運営方法を考える必要があるが、今後も是非続けて欲しい企画である。
 2日目午前中は、(前日のアルコールを抜くための?)スポーツ大会。午後より、いよいよ講演会が始まり、夕方は東北大理院の寺前紀夫教授の招待講演というスケジュール。そして、夜の懇親会と続き、部屋に戻ってからの2次会、3次会では・・・。
最終日は、前日までの疲れが頂点に達した中、朝から残りの講演会となったため、学生の参加姿勢もイマ一つ。先生方も、初日の『イブニングセッション』の効果が出ていないとお嘆きだった。しかし、昼食後には皆さん次回セミナーでの再会を約束し、元気に帰路についていた。「若手の交流」がまずは達成できた瞬間である。

日鐵先端研 西藤将之



第2回分析化学東京シンポジウム

 本会は分析機器展と同日程の9月2〜4日、幕張国際展示場と幕張プリンスホテルで開催され、参加登録者数3000余名と昨年の第1回とほぼ同数であった。内容は、特別講演2件、分析情報と信頼性に関するシンポジウム8件、ポスター発表は昨年をはるかに上回る83件(2日間)であった。
 特別講演は、海洋の物質とエネルギーの循環によって地球環境が制御されるメカニズムと、各種元素類の存在と移動の明確化によるそのメカニズムの実証、また、人工衛星からの情報で明かにされる考古学的環境と事実の発見という、ふたつの魅力的なテーマについてであった。ともに世界観、歴史観が深く揺さぶられるような新しい認識をもたらす興味深い講演であったが、それらを実現させたものが個々の新技術・化学的知見であるのが印象深く感じられた。
 ポスター発表は、今回はシンポジウムとは会場を分けて、国際展示場内の別室で行われた。「大学・公的機関の研究と企業との出会う場」のイメージで設けられた試みであったが、今年は広義の環境とセンサー関連の発表が多くみられた。両日共2時間のコアタイムはあったもののそれでは足りず、ほとんどの発表でさらに2時間延長したポスター片付け時間まで、熱心な討論が行われていた。
 「分析情報と信頼性に関するシンポジウム」では、前回より収容能力を増やしたにも係わらず、ほとんどの講演が満員に近く、会場に入りきらない場合もあった。インターネットによる情報収集からLC/MSの現状まで、各分野での分析法の信頼性確保、その一環としての試験所認定制度まで、今分析に携わる者が必要としている情報は何か、明らかに示したものと言える。
 第2回を迎え東京シンポジウムは、機器展の最新分析機器情報に加えて、研究の最先端情報(ポスター)と現実の社会と分析技術の係わり合い、そして新技術が可能とした新しい世界観、歴史観まで、学会とは切り口の異なった情報獲得の場として方向性が見えてきたように思う。

大日本インキ化学工業(株)高田加奈子



CITAC
主催;日本分析化学会、物質工学工業技術研究所
期日:1999年11月9日(火)〜11日(木)
場所:つくば国際会議場
ワークショップ:化学計測におけるトレーサビリティ、試験所認定の世界的現状、不確かさの定量化、標準物質の現状、技能試験の実際、教育とトレーニング

 皆様ご存知のように、ISO 9000, 14000シリーズをはじめとする世界標準化の大波は分析化学の分野にも押し寄せ、ISO Guide 25に基づく試験所認定、技能試験への参加など多くのことが要求されております。日本分析化学会ではこうした状況に対応すべく、分析信頼性委員会を中心として、分析信頼性エグゼクティブセミナー、分析信頼性実務者レベル講習会などを開催し、多くの会員の参加をいただいております。
 CITAC(Co-operation on International Traceability in Analytical Chemistry)は、分析化学における国際的なトレーサビリティを確保するために設立された組織で、「分析化学における国際トレーサビリティ委員会」と称しています。皆様よくご存知のように、化学の分野ではトレーサビリティが取りにくいため様々な問題点があり、国家標準物質の整備が急務となっています。日本分析化学会はその使命が極めて近いCITACに委員を送って協力を進めてまいりましたが,来年11月にCITAC '99 Japan Symposium(CITAC '99 分析信頼性国際会議)を日本で開催することになりました。
 会場は来年6月に竣工する「つくば国際会議場」です。高速バスの終点「つくばセンター」から徒歩約5分の地にあり、「つくば」にしては足の便もよく、ホテル、レストランも徒歩圏内にありますので多くの方々の参加を期待しています。シンポジウムの2日間は参加者の便宜を図って、同時通訳を行うことにしました。参加の皆様は、ポスターセッションでの発表を行っていただく予定です。
 本国際会議が開催されるあと1年の間に国際標準化をめぐる動きは加速することが予想されます。この分野の世界的な第一人者の招待講演と日本からは我が国の活動の報告が行われる予定です。詳細についてのお問い合わせは下記にお願いします。
〒305-8565 つくば市東1-1、物質工学工業技術研究所、環境標準物質特別研究室、岡本研作、Tel/Fax 0298-54-4628, E-mail:kokamoto@nimc.go.jp


編 集 後 記

 今年の特集のテ−マは、分析化学に長年携わって来られた先輩から後輩へのメッセ−ジです。分析化学は実社会との付き合いが取り分け深く、技術やノウハウが特に重要な学問だと考えています。長い間の蓄積の中に、様々な意味で現在に活かしたい貴重な知見や知恵が埋もれ、あるいはまだ広く知られずにいるかもしれません。内容を限定せず、それだけに印象深く心に浮かぶ事を私たちの先達から伺いたいと考えて、支部長その他の先生から頂いたテ−マを具体化してみました。
 去年、今年と頼もしい相棒に頼り切り、特集などやりたい事だけ独断と偏見で担当させて頂きました。支部の諸先生はじめ分析化学会の方にも、そしてなによりもう一人の編集委員さんに御面倒をお掛けして申し訳なく思っています。無事に発行できましたのはひとえに皆様のご協力の賜物と心からお礼申し上げます。
 お読み下さった方々、有り難うございました。
大日本インキ化学工業(株) 高田加奈子


 産休明け、関東支部での初仕事でしたが、なんとかこの編集後記を書くことができました。
 想えば、高校の化学部時代から数えると、分析歴が人生の半分以上となってしまいました。その間、目の前の事ばかりに一生懸命で、何を目指したらよいのかもわからぬまま時間を過ごしてきたような気がします。今回の特集テーマは、そんな私にも少し周りを見ることを教えてくれました。記事を書いてくださった方々には、重ねてお礼申し上げます。
 夜中に編集が一段落ついた後、娘の豪快な大の字姿を見てホッと肩の力がぬけていきました。どんな未来を夢見ているのか、起こして聞いてみたいような気分でした。
富士通(株)水谷 晶代


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