1998.9.20発行
発行者:日本分析化学会関東支部
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(社)日本分析化学会 関東支部長 平井昭司
日本分析化学会の発展を願う!
今年の4月に本学会の事務局長に就任しました新入社員の小野と申します。この紙面をお借りしてご挨拶できる機会を得ましてたいへん光栄です。
30数年間も民間会社の化学分析、機器分析の研究者であった自分が、最初は研究業務から離れる寂しさ、何とはなしの不安、皆さんもこの気持ち理解していただけると思います。しかし、すでに数ヶ月が過ぎ、結構キツイ民間会社の研究業務からの解放感とは裏腹に、新たな事務職としての試練に立たされている今日この頃です。
思い起こせば、私が本学会の会員になったのは30余年前ですが、処女講演を慶応大学で確か、「鉄鋼中の微量Cr定量の研究で、刺激臭の強いイソアミルアルコールを用いる新抽出吸光光度法の開発」を発表したことは何故か鮮明に記憶しております。
関東支部の幹事や常任幹事を経て、その後民間代表的な意味の名誉ある副支部長の大役も皆様のおかげで無事卒業できました。その後、突如本部の主務理事のお役目を仰せつかり、本学会との縁が切っても切れないものとなったわけです。
さて、話は変わりますが、現在の本学会は経営面を含めて非常に厳しい状況におかれております。
現在の広範で活発な活動を犠牲にしたくはありません。そこで、新たな発想による会員拡充を強力に進め、社会貢献をにらんだ新規収益事業の推進(標準物質の開発と販売、高い視野でのセミナー・講習会の企画、試験所認定における技能試験や企業内教育への参画など)、あるいは学会組織・事務局体制の見直しと近代化などに挑戦し、今後とも発展の可能性が見える学会への構築に全力を投入したいと考えております。
そのためには、本学会の半数の会員を抱える関東支部の皆様のご理解とご協力なしには行うことが困難です。お堅い話になってしまいましたが、この恐れを知らぬ新米事務局長にどうかご支援をよろしくお願いいたします。率直なコメントをお聞かせ下さい。
E-mail: aono@mtg.biglobe.ne.jp Fax: 03-3490-3572
(社)日本分析化学会 新米事務局長 小野昭紘
熱く燃える学会活動日本分析化学会の発展を願う!
特集:未来に想うこと・・
第39回分析機器講習会
恒例の関東支部主催の機器分析講習会が今年も6月から8月にかけて、3コースに分かれて実施されました。今回で39回という伝統のある講習会ですが、昨年度の実行委員長の黒沢さんからの的確な申し送りがありスムーズに今年度の打ち合わせに入ることができました。
今年度は有機組成分析のコースを3年ぶりに表面分析のコースへ変更したことと、HPLCのコースは昨年度はキャピラリーカラムを含む4日間コースでしたが参加者より長すぎるとのコメントがあり、今年は3日コースとしました。
例年人気のあるICP発光分析、ICP質量分析は今年もセイコー電子工業さんの会場をお借りして約60名の参加者を得て無事に終了しました。HPLCのコースは今年も東京理科大学で実施いたしました。
今年は不況の影響で当初HPLCの参加者希望者が少なく心配しましたが、最終的には約50名の参加者が集まりほっとしました。表面分析のコースは講義を日産横浜ビル、実習はアルバックファイ社で32名の参加者で実施いたしました。表面分析の開催時期が8月末になった影響で当初の予定よりやや少ない参加者でした。
弊社からも各コースへ1〜2名参加させましたがハイレベルな講師陣による講義の内容が充実しており、さらに最新の装置による実用的な実習があり非常に参考になったと言っておりました。関東支部としてはこれからも受講生の立場に立った講習会の伝統をさらに充実させて確実に発展させて行くことが期待されていると思います。
最後に、ご指導いただいた平井支部長、コーデイネイターとして、全力を傾注していただいた東京理科大学薬学部長中村先生(HPLC)、国立資源環境研田尾主任研究員(ICP,ICP−MS)、日産アーク志智室長(表面分析)の皆様、熱心な講義をして頂いた講師の諸先生に心より感謝申し上げます。又講義、実習の場所を提供して頂き様々な御協力をいただいた東京理科大学、セイコー電子工業、
日産、アルバックファイの関係者の皆様にも深く御礼申し上げます。
鋼管計測(株)分析センター
石橋耀一
第一コース:ICP発光分析・ICP質量分析の基礎と実際
誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法やICP質量分析法は、半導体や高純度試薬などの先端材料や環境・生体試料などの分析法として、急速に普及しています。
第一コースでは主に初心者の方を対象に、第一線で分析に携わっている先生方の講義と分析機器を用いた実習により、両分析法の基礎と実際が体得できること、また、初心者だけでなく、現場で分析にお困りの方にも直接先生方に相談することにより、分析ノウハウが習得できることを目指しています。簡単に今年のプログラムをご紹介しますと、
(1)測定原理と最近の進歩 (資源環境技術総合研究所 田尾博明)
(2)半導体・セラミックスの分析 (東芝 岡田章)
(3)環境・生体試料の分析 (国立環境研究所 田中敦)
(4)超純水・高純度試薬の分析 (多摩化学工業 赤羽勤子)
(5)高純度金属の分析 (ジャパンエナジー 川田哲)
(6)有機溶媒・油試料の分析 (帝国石油 中山克義)
またこの他にも、イオン交換カラム法や有機溶媒抽出法などの試料前処理法の実習を行いました。不況で研修の予算がカットされる中でも、毎年定員(40名)をオーバーする応募があるのは、先生方の熱心な指導と、装置・会場を提供していただいているセイコーインスツルメンツの御協力の賜物だと思います。
このコースは以前にICP発光分析法を中心に行ってきたものを一旦休止した後、一昨年よりICP-MSを取り込んで再開したものです。来年で4年連続になりますので、心機一転、新しい発想で内容をより充実していただけたらと希望しております。
資源環境技術総合研究所 田尾博明
第2コース:高速液体クロマトグラフィーの基礎と実際
第2コースは6月15〜17日にかけて東京理科大にて行われました。
中村洋氏(東理大薬)を中心に、渋川雅美氏(日大生産工)、西川隆氏(北里大医)、岩岡貞樹氏(三共)、二村典行氏(北里大薬)、星野忠夫氏(慶大医)、土屋正彦氏(ジオクト)、富岡勝氏(日立)の各講師の先生方に講師をお願いし、(株)島津製作所、ジーエルサイエンス(株)、東ソー(株)、日本ダイオネクス(株)、日本分光(株)、日製産業(株)、(株)日立製作所、(株)ユニフレックス各社の機器提供をいただき、実習を含めてHPLCの基礎から応用までを一貫して行い成功時に終了しました。
(株)日産アーク 表面分析研究室 志智 雄之
第3コース:最新機器を用いた実務者のための表面分析講座
第3コースは8月25〜26日に日産横浜ビル会議室を使っての講義とアルバック・ファイ(株)での実習の2日コースで行われました。
講義は始めに二瓶好正氏(東大生研)から表面分析法概論と題して分析法の概要と各分析法の特徴、分類を中心に講義していただき、その後、分析対象材料を有機、無機、金属、電子材料の4分野に分け、三木哲郎氏(帝人)、田沼繁夫氏(ジャパンエナジー分析センター)、橋本哲氏(鋼管計測)、鈴木峰晴氏(NTT-AT)という各分野の企業での実務分析者の先生方に実際の分析例や分析上の注意点など実務者の知りたい内容について講義していただき、最後に総合討論として全体にわたる質疑討論を行いました。
2日目はアルバック・ファイ(株)のご協力のもと、午前中はオージェ電子分光分析装置(FE-AES)、X線光電子分光分析装置(μ-XPS)、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)に関して、最新装置を用いて何処まで分析できるのかの説明と装置見学を行い、午後は事前に選択してもらった装置に関して前処理や分析時の注意点やノウハウ、測定法、データ解析法などについて実習を行いました。
参加者は夏休み開けすぐの週であったこともあり、34名と少なめではありましたが、アンケートによると「分析で悩んでいるところが聞けて良かった」「今まで何となくでやっていたことがなぜそうなのかがクリアになり良い勉強になった」「今後分析業務を行っていく上で大変参考になった」などの反響をいただきました。
表面分析に関しては実習を含めた講習会がほとんどないことから「実習を含めた実務者用の講習会を定期的に開催して欲しい」との声も聞かれましたが、「もっと分析事例を多くして欲しい」「データ解析の仕方についてもっと教えて欲しい」といった反響も聞かれ、コーディネーターとして「実務者のための」と唱った割に分析担当者が知りたいと思っている点への入り込みが少なかったと反省しています。
分析化学会主催の講習会であることのと特徴を生かし、分析を実際に行なっている人を対象とし、知っていなければならない原理や理論などの基礎知識と測定法およびデータ解析のノウハウ的なもの中心とした実習を含めた講習会が望まれていると感じました。
(株)日産アーク 表面分析研究室 志智 雄之
関東支部ウェブサイトの発足と現状
昨今のインターネットの普及に伴い、関東支部でもウェブサイト(URLはhttp://ana00.sc.niigata-u.jp/jsackanto/ いわゆるホームページのことだが、用語を正確に使うために「ウェブサイト」と呼ぶ。)を持ち、各種情報をインターネット上で発信することになった。ここでは、これまでの経緯と現状について紹介したい。
インターネットを利用しての情報発信をしたいという願いが関東支部の幹部にいつ頃からあったのかは、筆者は知らない。その希望は、昨年東京大学で行われた秋の年会のプログラムを「ぶんせき」よりも早く公表したい、というかたちで筆者の知るところとなった。
もう少し主観的に書けば、平成9年度の第2回常任幹事会の後、ビールを飲ませて口説く、と云う行為であった。実際にその場にいた常任幹事の有志(支部長、副支部長の他数名)でいろいろと検討(ビールを飲みながらの雑談)後、本サーバーをどこに置くかといった、かなり重大な問題は今後検討することにして、取りあえずホームページの作成に取りかかった。
当時の主な内容は、第46年会と第1回分析化学東京シンポジウムのプログラムであった。年会のプログラムは当初の目論見どおり「ぶんせき」より早く公開でき、NTTの新着情報にも投稿したりもしたが、実際のアクセスは少数で、知っている人しか知らないサイトであった。
その後、「分析化学若手交流会20年のあゆみ」や「関東支部ニュース」のバックナンバーなども掲載したが、1日のアクセスが5回を越えることは無く、如何にも「暫定的暫定版」と云った風情のまま、およそ10ヶ月が過ぎた。暫定的暫定版と似たような文句が並んでいたが、「暫定的」には本サーバーの場所が決まっていない、という意味があり、「暫定版」には関東支部で正式に認知されていない、という意味があった。
今年度になって、本格的にウェブサイトの運営などを検討するための準備委員会が置かれ、何回かの委員会(たいていはメールのやりとり)の後、平成10年の第2回常任幹事会において「日本分析化学会関東支部ウェブサイトの運用に関する要項」が承認された。
翌日には「暫定版」の文字が消されたことは言うまでもない。また、正式なサイトになったのを機に、Yahoo!JAPANやCSJインデックスなどの検索サービスにも登録した。そのおかげか、1日のアクセス数も10回を越える日が多くなり、かなり賑わっているようである(この辺の様子は、アクセスログをご覧いただきたい)。
現在のサイトの主な内容は、関東支部の各種事業の案内と申込フォーム(ネット上で申込ができるフォーム)を主体とする最新情報のサービスと、関東支部ニュースや若手交流会のあゆみといった資料のアーカイブであり、インターネットならでは、といったページが無い(もっとも、どういうページがインターネットならでは、なのか未だ分からないのだが)。
どんな情報をインターネットで公開していくのかについては、今後も常に検討していかなければならないだろう。また、本サーバーの場所も検討課題として残っている。これは、いかにも関東支部、といったURL(例えば、http://www.jsackanto.??.jp/)をつけるのか、分析化学会のサイトとどう関係していくかといった問題を含んでおり、経済的な問題とも関連してなかなか難しい。
さらに、会員によってネットワークに対するアクセスのし易さが非常に違う、という根本的な問題もある。
今後どんなウェブサイトにしていくかという問題は、管理運営委員会を中心として検討していくにしても、関東支部会員皆様からの意見や提案を、ぜひお寄せいただきたい。
新潟大学 佐藤敬一
第21回分析化学若手交流会 おおわにセミナー』に参加して
去る7月3〜5日、青森県大鰐町の「おおわに山荘」で開催された標記セミナーに参加した。冬はスキー場のこの地は涼しく、東京地方が30℃を優に超す猛暑を記録する中、快適に過ごせるところであった。参加者は学生を中心に59名と例年に比べて少なかったが、却ってこのことが例年以上に充実したセミナーとなったことに繋がったと思われる。
関東地区からは、私の他に13名の参加があった。その中で、恒例の初日の自己紹介で東京薬科大の荒井健介先生のグループが、朝早くからマイカーを飛ばし、10時間近くをかけてご到着されたというのを聞き、いきなり「若手」のパワーを見せつけられた。
夕食後、主幹事であられる東北支部・糠塚いそし先生を中心に今セミナーの目玉として企画された『イブニングセッション』を開始。これは、各参加者が表題や要旨を見て興味のある講演を選び、その講演者の元に数名ずつ集まって、本講演に先立ち内容について存分に議論するというものである。また、講演者側にとっても多少負荷がかかるのは否めないが、講演練習の場となる他に、自分の研究について改めて考えることができるなど得るものも多いであろうという狙いもある。当初は心配されたこの新企画も、フタを開ければ大成功。参加者にも大変好評で、中には予定時間を大幅に延長し、夜10時過ぎまで熱い討論を続けたグループもあったようである。時間や場所の制約がある以上、参加人数などを十分に考慮した運営方法を考える必要があるが、今後も是非続けて欲しい企画である。
2日目午前中は、(前日のアルコールを抜くための?)スポーツ大会。午後より、いよいよ講演会が始まり、夕方は東北大理院の寺前紀夫教授の招待講演というスケジュール。そして、夜の懇親会と続き、部屋に戻ってからの2次会、3次会では・・・。
最終日は、前日までの疲れが頂点に達した中、朝から残りの講演会となったため、学生の参加姿勢もイマ一つ。先生方も、初日の『イブニングセッション』の効果が出ていないとお嘆きだった。しかし、昼食後には皆さん次回セミナーでの再会を約束し、元気に帰路についていた。「若手の交流」がまずは達成できた瞬間である。
日鐵先端研 西藤将之
第2回分析化学東京シンポジウム
本会は分析機器展と同日程の9月2〜4日、幕張国際展示場と幕張プリンスホテルで開催され、参加登録者数3000余名と昨年の第1回とほぼ同数であった。内容は、特別講演2件、分析情報と信頼性に関するシンポジウム8件、ポスター発表は昨年をはるかに上回る83件(2日間)であった。
特別講演は、海洋の物質とエネルギーの循環によって地球環境が制御されるメカニズムと、各種元素類の存在と移動の明確化によるそのメカニズムの実証、また、人工衛星からの情報で明かにされる考古学的環境と事実の発見という、ふたつの魅力的なテーマについてであった。ともに世界観、歴史観が深く揺さぶられるような新しい認識をもたらす興味深い講演であったが、それらを実現させたものが個々の新技術・化学的知見であるのが印象深く感じられた。
ポスター発表は、今回はシンポジウムとは会場を分けて、国際展示場内の別室で行われた。「大学・公的機関の研究と企業との出会う場」のイメージで設けられた試みであったが、今年は広義の環境とセンサー関連の発表が多くみられた。両日共2時間のコアタイムはあったもののそれでは足りず、ほとんどの発表でさらに2時間延長したポスター片付け時間まで、熱心な討論が行われていた。
「分析情報と信頼性に関するシンポジウム」では、前回より収容能力を増やしたにも係わらず、ほとんどの講演が満員に近く、会場に入りきらない場合もあった。インターネットによる情報収集からLC/MSの現状まで、各分野での分析法の信頼性確保、その一環としての試験所認定制度まで、今分析に携わる者が必要としている情報は何か、明らかに示したものと言える。
第2回を迎え東京シンポジウムは、機器展の最新分析機器情報に加えて、研究の最先端情報(ポスター)と現実の社会と分析技術の係わり合い、そして新技術が可能とした新しい世界観、歴史観まで、学会とは切り口の異なった情報獲得の場として方向性が見えてきたように思う。
大日本インキ化学工業(株)高田加奈子
編 集 後 記
今年の特集のテ−マは、分析化学に長年携わって来られた先輩から後輩へのメッセ−ジです。分析化学は実社会との付き合いが取り分け深く、技術やノウハウが特に重要な学問だと考えています。長い間の蓄積の中に、様々な意味で現在に活かしたい貴重な知見や知恵が埋もれ、あるいはまだ広く知られずにいるかもしれません。内容を限定せず、それだけに印象深く心に浮かぶ事を私たちの先達から伺いたいと考えて、支部長その他の先生から頂いたテ−マを具体化してみました。
去年、今年と頼もしい相棒に頼り切り、特集などやりたい事だけ独断と偏見で担当させて頂きました。支部の諸先生はじめ分析化学会の方にも、そしてなによりもう一人の編集委員さんに御面倒をお掛けして申し訳なく思っています。無事に発行できましたのはひとえに皆様のご協力の賜物と心からお礼申し上げます。
お読み下さった方々、有り難うございました。
大日本インキ化学工業(株) 高田加奈子
産休明け、関東支部での初仕事でしたが、なんとかこの編集後記を書くことができました。
想えば、高校の化学部時代から数えると、分析歴が人生の半分以上となってしまいました。その間、目の前の事ばかりに一生懸命で、何を目指したらよいのかもわからぬまま時間を過ごしてきたような気がします。今回の特集テーマは、そんな私にも少し周りを見ることを教えてくれました。記事を書いてくださった方々には、重ねてお礼申し上げます。
夜中に編集が一段落ついた後、娘の豪快な大の字姿を見てホッと肩の力がぬけていきました。どんな未来を夢見ているのか、起こして聞いてみたいような気分でした。
富士通(株)水谷 晶代