北海道支部ニュース 第25号 |
日本分析化学会 北海道支部 2002年 7月 |
支部長 中村 博
平成14年度の支部長をおおせつかった中村 博です。3月に支部長をお引き受けいたしまして、これまでに4月26日に第1回幹事会を行いました。また、本年9月19〜21日には北海道大学におきまして日本分析化学会第51年会を喜多村昇実行委員長のもとで行うこととなっており、その準備も現在着々と進んでおります。支部会員各位のご協力をお願いいたします。
さて、本支部の本年7月現在の会員数は延べ264名(正会員185名、学生会員42名、公益会員22、特別会員11、維持会員4)となっています。昨年と比べ、正会員が少し減少した以外は全体的には増加しています。今後も会員のご協力により会員数が増加することを期待しています(但し、14名の会費未納の方が、この6月に除名されたことは、会員拡充に努めている当支部としては残念なことです)。一方、支部役員は参与31名、幹事59名で構成されています。役員以外にも、支部ニュース編集委員や各セミナーの実行委員などをお願いいたしておりまして、会員の半数近くの方が何らかの形で支部の運営に携わっておられます。このように北海道支部は全国的には一番小さな支部であるにも関わらず、支部活動が活発だといわれているのは、会員の方のこのような努力のたまものだと考えています。
北海道支部では2000年度よりホームページを開設しておりますが、本年3月よりサーバーを移転しました。従いまして、ホームページのアドレスが変更になりました(http://nakamura-2.ees.hokudai.ac.jp/JsacBranch/)。このページを御覧になった方はおわかりかと思いますが、アクセスカウンターにこのページをアクセスした回数が表示されていますが、平均4回/日のペースです。この数値からすると、あまり会員(以外も含めて)の方が利用されていないと思われます。これは、ホームページが周知されていないこともありますが、内容をもっと充実しなければいけないということを示しているようです。そこで、本年はこのホームページをもっと活用していただくことを目標にして、よりきめ細かく更新を行っていきたいと考えています。
現在、このページからは、本部ならびに全国の支部のページへアクセスでき、そこの活動状況をみることができます。また、この支部ニュースのPDF版を掲載していますので会員以外の方でも支部ニュースが印刷と同じ形式で見ることが出来るようになりました。また、一昨年の高橋支部長の提案を引き継いで、北海道支部内の会員の研究室等へのLinkを作って分析化学ネットワークを作っていきたいと考えています。会員の皆様でホームページをお持ちの方は是非アドレスを支部事務局へご連絡ください(現在、どなたも申し出られていません)。
ホームページと支部ニュースは、支部と会員を結ぶコミュニケーションの場でもありますが、ややもすると一方通行になりがちですので、会員のご要望・ご意見などはご遠慮なく支部事務局へメールなど(nakamura@ees.hokudai.ac.jp)で送っていただき、支部の運営に反映させたいと思っています。
支部長 | 中村 博 | 北大大学院地球環境科学研究科 |
事務局 〒060-0810札幌市北区北10条西5丁目 TEL: 011-706-2259 |
副支部長 | 上館民夫 大澤雅俊 |
北大大学院工学研究科 |
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庶務幹事 | 諸角達也 佐々木胤則 |
北大大学院理学研究科 北海道教育大学札幌校 |
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会計幹事 | 田原るり子 吉村昭毅 |
北海道環境科学研究センター |
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監 査 | 高橋英明 三浦敏明 |
北大大学院工学研究科 |
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幹 事 | 50名 | ||
参 与 | 31名 |
月 日 |
事 業 |
場所 |
担当・世話人 |
2002年 |
第1回幹事会 | 札幌 | |
7月6〜7日 |
第18回分析化学緑陰セミナー |
小樽 | 石坂 昌司 |
7月19日 |
2002年夏季研究発表会 |
旭川 | 片山 則昭 |
7月26日 | 支部ニュース第25号発行 | 札幌 | 伊藤 慎二 |
7月下旬〜 | 支部役員候補者選考委員選挙 | 札幌 | |
9月上旬 |
支部役員候補者選考委員会 |
札幌 | |
9月19〜21日 |
日本分析化学会第51年会 |
札幌 |
喜多村 昇 |
9月28日 | 北海道地区化学教育研究協議会 | 札幌 | 嶋津 克明 |
10月18日 | 公開セミナー | 室蘭 | 小澤 幸男 |
10月下旬 | 第2回幹事会 | 札幌 | |
11月上旬 | 学会賞等候補者推薦委員会 北海道分析化学賞等選考委員会 |
札幌 | |
12月 | 支部ニュース第26号発行 | 札幌 | 伊藤慎二 |
2003年 |
第38回氷雪セミナー | 定山渓 | 斎藤 健 |
2月上旬 | 2003年冬季研究発表会 北海道分析化学賞等授与式 |
札幌 | 神 和夫 |
2月下旬 | 審議会(第3回幹事会) | 札幌 |
平成14年度事業案内 |
2002年度北海道地区化学教育研究協議会のお知らせ
主催 日本化学会北海道支部、日本分析化学会北海道支部、他
後援 北海道教育委員会、札幌市教育委員会、北海道高等学校長協会、他
日時 平成14年9月28日(土)10:00〜16:30
会場 北海道大学大学院地球環境科学研究科(札幌市北区北10条西5丁目)
協議主題「理科(化学)教育における小・中・高・高専・大学の連携について考える」
講演(午前の部)(10:20〜11:50)
演題 「大気の化学と浄化技術」
講師 竹内 浩士 先生(独立行政法人 産業技術総合研究所)
講演(午後の部)(13:00〜13:40)
演題 「諸外国の初中等教育事情−特に理科教育について−」
講師 細矢 治夫 先生(日本化学会化学教育協議会議長)
他に、提言 (13:50〜15:30)及び自由討論 (15:30〜16:30)
参加費 500円(含む要旨集), 懇親会費 4,000円
申込方法:はがきに氏名,所属,連絡先住所,電話番号,懇親会出席の有無,を明記の上,9月20日(金)までにお申し込みください。(Fax, E-mailも可)
申込連絡先:〒064-0954札幌市中央区宮の森4条7丁目3番5号/北海道立理科教育センター 化学研究室 化学教育研究協議会係 西出雅成 越坂直広
Tel: 011-631-4405 Fax: 011-631-9475 E-mail:nishide@ricen.pref.hokkaido.jp
平成14年度日本分析化学会北海道支部公開セミナー
−「PCB廃棄物処理とPCBの分析」− のお知らせ
主催 日本分析化学会北海道支部
日時 平成14年10月18日(金)15時〜18時
会場 室蘭工業大学大学会館多目的ホール〔室蘭市水元町27-1,交通:JR東室蘭駅下車,徒歩7分「東町ターミナル」鷲別経由工大行バスにてバス停「工大」下車(所要時間15分)〕
プログラム
1. 「PCB廃棄物処理の背景」
講師:島崎 昭氏(北海道胆振支庁地域政策部長)
2. 「超臨界水酸化法によるPCBの完全分解処理」
講師:鈴木 明氏(オルガノプロセスエンジニアリング事業部SCWO部開発グループ長)
3. 「PCBの分析について」
講師:高菅 卓三氏(島津テクノリサーチ分析本部事業推進室長)
参加費 無料
参加申込締切 10月4日(金)
参加申込方法 FAX,E-mailにて下記にお申し込み下さい.
問合・申込先 日鋼検査サービス株式会社第一事業部 小澤幸男
〔FAX:0143-24-7841,E-mail:yozawa@cocoa.ocn.ne.jp〕
(北大院地球環境)豊田和弘
バイオの最先端地域へ
文部科学省の長期在外研究制度を利用して、平成13年3月末から9ヵ月間、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のスクリプス海洋研究所の生物部門にて、研修をする機会を得ました。スクリプス海洋研とは、米国東海岸のウッズホール海洋研と並ぶ米国2大海洋研究所の一つです。1907年にエレン・スクリプス氏の寄付を得て設立後、UCSDに所属した研究機関で、生物、地質、気象と広い分野での海洋研究のメッカとして古くから知られてます。
このアメリカ西海岸の最南端、メキシコとの国境に位置するサンディエゴ市は、「アメリカでもっともすばらしい都市」と称され、夏は涼しく冬は暖かく、雨もあまり降らず、とても過ごしやすい気候でした。ここは映画「トップガン」の舞台で、米国海軍の軍港もあり、軍人さんの町としても有名でしたが、近年はIT、通信、ハイテクやバイオ関係の最先端産業地域として発展してます。
特にUSDSのあるラホヤ地区には、免疫学のスクリプス研究所、癌研究のバーナム研究所、遺伝子治療のソーク研究所などの有名なバイオ研究拠点をはじめとして、ハイテクベンチャー企業が集中しており、日本からも数多くの研究者が来て働いています。また私のいた海洋研究所の位置するラホヤ海岸はサーフィンの名所であり、お金持ちの別荘が立ち並び、物価が非常に高い反面、治安が大変良く、女性も夜中にジョギングしていました。
というと、滞在中はさぞや高価な分析装置で実験していたのだろう、と誤解されやすいのですが、私の使用したのは普通の分光光度計だけです。まずマンガン酸化バクテリアSG-1という海洋桿菌胞子を大量に培養します。その数μmの大きさの胞子表面に酸化酵素があるのです。その胞子をマンガン溶液中に添加して、いろいろな条件下でマンガン沈澱速度を測定しました。当初は希土類元素の挙動への影響を測定するつもりでしたが、この基本的な測定にまだ未知な部分があり、環境化学的にこちらの実験がまずは重要だと判断しての決断でした。
スクリプス海洋研究所の生物部門の建物
受入先の合同研究室の様子
ここの研究所に受け入れて下さったのは私より5歳年上のテボ先生です。隣の助教授である奥さんのヘイグウッド先生と合同で海洋微生物学・生化学の研究室を主宰してます。テボ先生は院生時代からマンガン酸化バクテリアを研究しており、マンガン酸化酵素の分子生物学や生化学だけでなく、黒海や熱水系での微量元素の地球化学的循環についても長年研究していました。最近ではスタンフォード大の放射光施設の研究者と共同で、培養したマンガン鉱物の鉱物同定もしています。また、テボ先生の院生の何人かはクロム汚染についての微生物による自然減衰をテーマに研究していました。
一方、ヘイグウッド先生は無脊椎動物の共生海洋微生物が専門です。ハーバード大を次席優等生で卒業した才媛で、神奈川県三浦半島西南端にある東大付属の三崎臨海実験所でも2〜3年間研究した経験もあります。現在の彼女の院生達のテーマはすべてフサコケムシ中の共生微生物中の癌治療薬の研究でした。また最近サイエンスに掲載された海洋性細菌から単離されたシデロホア(生物が利用可能な形態に鉄とキレート環を形成する低分子分泌物)の論文にも共著者となっていました。
本研究所の生物部門の研究グループは大抵数人単位の少人数です。しかし、このヘイグウッド・テボ研は例外で、UCSDの学部生や研究補助員、米国各地や各国から移動してきた若い院生やポスドクなどをすべて含めると20?30人の老若男女の大集団でした。ドロシー・パーカーという年輩の女性研究者もシデロホアに関連した実験を元気に繰返す傍ら、米国の研究室が始めてという私を気にかけて下さり、その暖かい人柄にふれ多くを学んだのですが、ウイスコンシン大の名誉教授だと後で知りました。この研究室での主たる解析手法はPCR(DNA解析)、蛋白質精製、電気泳動、及び蛍光顕微鏡観察などで、地球科学系の私には新鮮でした。
一方、私にもなじみの深い手法も利用が可能で、スタンフォード大から来たポスドクはシュードモナス菌と鉄鉱物とのウランの挙動への関与について、薬学部の透過電顕観察やスタンフォード大のEXAFS、当研究所のICP質量分析などを活用して研究していました。私はこれらを活用するまで至りませんでしたが、テボ先生は狭い研究室の中、私が化学分析をするための空間や消耗品について配慮してくれ、また実験助手のキャロラインさんはいつも親切に対応してくれたので、気持ちよく実験できました。
そのため米国での生活や研究室に慣れた滞在後半の秋以降には集中して実験することができました。また、色々な分野の書籍の揃った本研究所の図書館は研究室から数十mしか離れておらず、土日も開いているので、テーマについて考えていた滞在前半にはよく利用していました。私は30分間隔で運行するバスで家と研究室との間を往復して、また独り者である事もあり、観光も9ヵ月間ほとんどせずに、勉強と研究に専念できました。ただ、研究所のすぐ前の海岸から、地層がバームクーヘン状にみごとに折畳まれたSedimentary fold(地震により海底地層が流動してできる褶曲構造)の路頭を発見したので、鉱物や地層観察が好きな私は写真を取りました。
バームクーヘン状に折れ曲がった明暗互層。
どんなきっかけでその研究室へ?
私の在外研究に関してよく聞かれる事は「一体、どういう御縁でその研究室へ?」という質問です。私は博士課程在籍中に海底のマンガン団塊を研究していて、微生物が環境中の元素の挙動に及ぼす影響に興味を抱き、すでに当時テボ先生のマンガン酸化バクテリアに関する論文を読んでいました。しかし、スクリプス海洋研へ電子メールを私が送るまでは、テボ先生は私の事を全く知りませんでした。自分の履歴書と興味を記載して、貴研究室でマンガン酸化バクテリアが希土類元素の挙動に及ぼす影響について研究したい旨の電子メールを送ったら、直ぐにOKの返信をいただきました。その事を東大のN先生に話したら、滞在費と旅費は文部科学省持ちだとはいえ、推薦状もなしに、専門も異なる見知らぬ人をよく受け入れたものだと言われました。
テボ先生に伺ったわけでないのでこれらは推測ですが、マンガン団塊の専門家である日本地質調査所のUさんが本研究所に長期滞在した際、テボ先生とも共同研究して有益だった事。もう一つは奥さんのヘイグウッド先生が日本に滞在時に日本の研究者に好印象を持っていたせいかと思っております。また、そのあとに1週間滞在したミシガン大学の先生によると、同じ東大理学部内とはいえ北大に移る以前に4つの異なる研究室を移動した私のような経歴は米国人好みなんだそうです。米国では大学院進学生の8割から9割は別の大学から進学します。何人かの院生に、なぜ同じ大学の大学院に進学したがらないのか、としつこく聞いたのですが、いろいろな分野や場所を経験した方がいい研究ができるに決まっているじゃないか、とあきれ顔で言われてしまいました。
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スクリプス海洋研究所の桟橋。 一面に太平洋の地平線が広がっている。この桟橋の下から本研究で使用したマンガン酸化バクテリアが採取された。 |
米国流の大学院進学先の決め方
米国の学部生はどうやって他大学の研究室の情報を集めるのか興味を持ち尋ね回ったところ、少なくともUSDSでは次のようなルートによる事が判りました。まず、専攻の決まった成績優秀な大学2年生は自分の興味のある研究室の実験補助として雇われて、試薬の調整、装置や消耗品の整備や調整を一手に引き受ける一方、研究室のセミナーにも参加して情報を得る。卒業に必要な実験や講議は3ヵ月単位で何度もくり返し開講されるので、やりくりして限られた期間に週に2、3回は研究室に来て懸命に仕事していました。本研究室に来た実験補助員の成績は4ポイント制で平均3.5以上と優等生に限られ、時給は800円くらいですが、研究室に役に立てば外に出る時によい推薦状をもらえるのです。
次に、大学3年生に進学すると、意欲のある学生は卒業までに興味ある1つ、叉は2、3の研究室に出入りして研究実験も講議や実習と平行して行う事が出来ます。無償の奨学金ももらえる制度もあるようです。さらに優秀な院生は無償の奨学金をもらって夏期の2ヵ月程、興味ある外国や他大学の研究室で短期留学もできます。私のいた夏にはハワイ大学から学部生がテボ先生の所に短期研究に来ていました。また、関連学会に参加する機会もあるのでしょう。こうして自分の進学すべき研究室を探すのです。これらの奨学金は全米科学財団(NSF)から出ており、米国の科学レベルを保つための支出の中で最も成果を挙げている成功例だ、と前述のミシガン大学の先生は誇らし気に言ってました。
又、米国では大学院生1年生にも教官が給料を払うと日本では言われてますが、それは工学部での話で、本研究室ではなし。ただし、3、4年目くらいになると、米国立衛生研究所(NIH)、米環境保護局(EPA)やなんとか財団から大抵援助をもらってました。一方、院生受け入れの是非をきめる時に米国の教官が一番重視するのは推薦状だそうです。成績や卒論、もちろん外国人の場合はTOEFLの得点も参考にするとの事。大学院の試験に相当するものもあるそうですが、最低限の知識を問うもので、実質的には相談の上、互いに選択して決定する事になるそうです。
インターネットで大助かり
今回のような外国研究室での長期滞在は私にとって始めての経験でした。自分の英語のヒアリング能力には自信がないので、これまで会った事もないテボ先生とのコミュニケーションが充分にとれるだろうかというのが渡米前の一番の心配事でした。それでも英作文はできるので、渡米直前にローミングサービスのよさそうなSo-netに加入し、またPowerBookG4も購入しました。日本から持参した2台のノートパソコンを米国での自宅と研究室とで接続したのです。
そのため滞在直後から、実験計画、質問や得られたデータの報告などを週に1回くらいのペースで電子メール送信することで、テボ先生からのアドバイスやコメントを得る事ができました。又、注文や実験に関連する事は実験助手にも写し(c.c.)を送付する事でサポートも得る事が出来ました。特に、テボ先生は指導する院生も多く、国際学会への渡航や大学院生指導のための研究航海などで頻繁に長期出張しているので、電子メールで主にやりとりするスタイルをとっていたのです。実際に私がテボ先生と面と向かって実験について議論したのは6回位でしたが、おかげで学術雑誌に投稿できるだけの成果を得る事ができました。
また、米国の社会保障番号の修得、電話ガス水道や銀行口座の開設、住居探しや中古家具の購入などもすべて初めての経験でしたが、USDSの留学生のためのウェブサイトは北大のそれよりも2桁以上情報量が多く、又サンデイエゴ在住の日本人の情報サイトも大変充実していたので、ほぼ独力で米国での滞在生活を立ち上げることが出来ました。日本の新聞もインターネットでほとんど読めますし、ここ数年で外国での長期滞在研究生活が格段に容易になった事が実感できました。
特にサンディエゴではスペイン語系の人が多く、自分の両親などが英語を不得意としていた人がかなりの割合でいるせいでしょうか、英語が不自由な人に対して寛容で、むしろ積極的に気配りしてくれたのはうれしい事でした。私にバクテリアの培養を主に指導してくれたのはロシアから帰化した微生物学研究員です。また、こちらでは年令の上下にはほとんどこだわらないので、私でも若い院生に混じって同等に実験できる雰囲気はありがたいことでした。日本の文化が儒教の影響を大きく受けている事を納得した次第です。年令にこだわらないといっても、スタッフの不在時には最高学年の院生が積極的に研究室内を見回っていたのも、米国らしく感じました。
いくつかの印象に残った事
本生物部門の建物の4階の講堂ではよくディフェンス(学位を取るための発表と質疑応答)などが開かれ、時々覗いていて不思議に思った事がありました。テーマは生態学、叉は動物行動学でも、電気泳動や蛍光顕微鏡写真など室内実験のスライドが必ず含まれているのです。反対に、本研究室の実験机で蛋白質の精製をしていた院生が、突然黒海や海底熱水域に1ヵ月以上調査に出かけます。この印象をテボ先生に伝えると、室内実験とフィールド調査の両方で成果を出さないと学位を修得できないというのが、スクリプス海洋研究所の昔からの伝統だと誇らし気に言われました。
同研究所の分子生物学研究室に在籍してる東工大出身の日本人ポスドクから聞いた話では、そこでのセミナーの議論の半分は海洋生物地理の話題であり、その時には分子生物学が専門で英語の堪能な彼でも理解不能となると言っていました。そういえば、ヘイグウッド先生の廊下に張ってある世界地図には、室内実験に用いる無脊椎動物の採取地点を示すと思われるピンが世界各地に刺してありました。このフィールドと室内実験との両方とも遂行するという伝統が、近年ラホヤに数多く設立されたバイオ系研究所群に対抗して、これまで本研究所の名声を保ってきた秘訣かもしれません。
また別の話ですが、高校生が2人、夏にボランティアとして研究室の雑用に参加してました。将来微生物学をやりたいの?、と聞くと、2人とも文科系で全く考えてないとのこと。文系だからこそ高校の間に理科系の世界を覗いておく事が、将来重要になるというのが米国流の教育でしょうか。作業の合間に話しやすそうな院生やポスドクを捕まえて、いろいろ質問していました。レポートにまとめて高校に提出するとそれが単位になるそうです。
毎週金曜日には研究室内の会合があるのですが、大人数が実験しているので、当然、実験後の不始末や装置の故障など実験室内ではトラブルが発生して報告されます。こういう時日本では犯人探しや使用禁止命令という形になりやすいのですが、こちらではこのような事態を発生させないようにするにはどうしたらよいか、みんなで相談しようという雰囲気なのが印象的でした。これも高校までの教育の違いによるのかもしれません。
なお、私がはじめて経験した事の一つに、研究室のpotluck(大勢の参加者が食べ物を持ち寄って開く食事会)があります。おにぎりが意外に人気がありました。また、おみやげに持参した六花亭のバターサンドを、皆初めは恐る恐る口にしていましたが、大評判でした。まだまだ興味深く感じた事が沢山残っているのですが、既に予定の字数を大幅に超えています。
最後に、在外研究の申請を勧めて下さった長谷部教授をはじめ研究科の先生方、不在の間に1年生の講議や実験を分担して下さった専攻の先生方、変更で御迷惑をかけた研究科事務の方々、本稿を書く機会をいただいた本編集委員の古月博士に感謝して、終わりにします。
これまでの終了行事報告 |
氷雪セミナー:2002年1月12日(土)、13日(日)、伊藤八十男幹事のお世話で定山渓温泉の渓流荘(札幌市職員共済組合 定山渓保養所)にて開催された。講演は富田 勤(北教大札)、梶 光一(北海道環境科学研究センター)、荻野 激(北海道立地質研究所)、都築俊文(北海道立衛生研究所)の4名の講師によって行われた。なお、参加者は36名であった。
冬季研究発表会:2002年2月4日(月)、5日(火)の両日、日本化学会・日本エネルギー学会各北海道支部・触媒学会北海道地区との共催により、北海道大学学術交流会館で開催。研究発表117件、特別講演2件、受賞講演2件、懇親会を行った(参加者250名)。支部各賞授与式:2月5日(火)冬季研究発表会会場で北海道分析化学功労賞2件、北海道分析化学賞1件、北海道分析化学奨励賞1件を授与し、受賞講演2件を行った。
支出 |
収入 |
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会議費 | 626,080 | 本部からの補助金 | 1,249,700 | |
講演会費 | 20,000 | 学会賞推薦委員会 | 10,000 | |
セミナー費 氷雪セミナー 公開セミナー 緑陰セミナー |
420,000 (160,000) (60,000) (200,000) |
印税収益 | 1,051,564 | |
受取利息 | 2,057 | |||
研究発表会費 |
320,000 |
雑収入 | 4,510 | |
当期不足金 | 917,907 | |||
学会賞推薦委員会費 | 13,703 | |||
印税配分 | 447,700 | |||
物故者印税精算費 | 423,630 | |||
書籍編集費 | 103,396 | |||
通信費 | 121,890 | |||
消耗品費 | 55,333 | |||
印刷費 | 50,000 | |||
支部ニュース編集費 | 35,700 | |||
人件費 | 450,000 | |||
交通費 | 43,300 | |||
北海道分析化学賞等経費 | 104,103 | |||
雑費 |
903 |
|||
合 計 | 3,235,738 | 合 計 |
3,235,738 |
支部会員の欄 |
この欄では、分析化学会の北海道支部会員の転出や転入・新入会など、会員に関する情報をお伝えします。新たに以下の方々の入会が認められました(ぶんせき 2002年1月〜7月号から)。これらに関する情報をお持ちの方は、支部ニュース編集委員までお知らせください。
岡田 宏治 滑ツ境プロジェクト | 奥津建太郎 北見工業大学大学院(工) |
安達 美和 北海道警察北見方面本部 | 角皆 潤 北海道大学大学院(理) |
穴田 哲也 北見工業大学(工) | 前花 浩志 北海道大学大学院(工) |
Yustiawati Syawal 北海道大学大学院(地球環境) | |
(順不同) |
北海道支部ニュース25号をお届けします。巻頭言は、恒例によりまして平成14年度支部長の中村博先生(北大院地球環境)に執筆していただきました。また、特別寄稿として豊田和弘先生(北大院地球環境)には、米国スクリプス海洋研究所での研究体験記を長編で書いて頂きました。お忙しい中、執筆をお引き受け下さいました両先生に深謝致します。
平成14年度の支部ニュース編集委員は、石田晃彦氏(北大院工)と諸角達也氏(北大院理)に代わり、村井毅氏(北海道医療大薬)と齋藤伸吾氏(北見工大)が加わりました。支部ニュースに関す御意見・ご要望がございましたら連絡を下さい(連絡先:伊藤慎二 E-mail: itoh-m33@hokuyakudai.ac.jp)。また、北海道支部のホームページには最新の情報や支部ニュースのバックナンバーが掲載されていますので、是非ご活用下さい。
(編集委員:伊藤慎二、古月文志、村井毅、斎藤伸吾)