生活文化・   放射光X線を使ってトイレの抗菌セラミックスの作用を探る
 エネルギー

 最近の清潔志向を反映し,トイレをはじめとする衛生陶器において,表面に抗菌釉薬を施した抗菌セラミックスが広く普及している。しかし一方では,銀や酸化亜鉛などを含む釉薬が抗菌作用を示す機構の詳細は解明されていなかった。本研究では,シンクロトロン放射光X線を光源とするX線吸収分光法により,抗菌釉薬に含まれた銀や亜鉛の化学状態分析を行い,抗菌作用発現メカニズムの解明を目指した。その結果,銀は釉薬中において1価,亜鉛は2価で存在し,いずれもガラスのような状態で拡散した非晶質となっていることが明らかとなった。

【D2014*】      

衛生陶器における抗菌釉薬に対するXAFS分析

(徳大総科1 ) ○沼子 千弥1・((株)INAX2) 井須 紀文2・山嵜 悟2・加藤 嘉洋2
[連絡者:沼子千弥、 電話:088-656-7265] 

  抗菌製品は近年の清潔志向の影響により生活のあらゆる分野に広がってきており、トイレをはじめとする衛生陶器やタイル等の生活系セラミックスの抗菌化もすでに「当たり前」の技術となってきた。抗菌コーティングには様々な方法があるが、INAXでは銀や酸化亜鉛等の金属成分を強化した抗菌釉薬を塗布した後、高温で焼成することで、衛生陶器やタイルに抗菌性能を発現させることに成功している。特に銀は、抗菌効能が大きいこと、耐性菌ができにくいこと、安全性が高いことなど、非常に優れた特性を備えているが、従来の研究では、どうして銀を含む釉薬が抗菌効果を示すのか、そのメカニズムは解明されていなかった。
  本研究ではこの抗菌作用発現メカニズム解明を目標に、シンクロトロン放射光を用いたX線吸収微細構造法(XAFS法)を適用した。レントゲン写真で用いられるようにX線は物質を非破壊で分析するのに適しているが、X線吸収スペクトルを測定することで、その物質に含まれる元素の酸化状態や化学結合している相手の元素の種類、数、結合距離といった局所構造の情報を得ることができる。これを利用したXAFS法を用いて、INAXの衛生陶器の抗菌釉薬に含まれる銀や抗菌タイルに含まれる亜鉛がどのような存在状態でいるかを調べた。XAFS測定は、高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設(Photon Factory) BL9AとBL12C、また大型放射光施設 SPring-8 BL01B1において行った。

  その結果、衛生陶器の抗菌釉薬中の銀の酸化状態は、Ag2OやAg3PO4と同じ1価であること、動径分布関数には第二配位圏のピークが出現しないことから、釉薬中にガラスのような状態で拡散した非晶質の状態で存在すること、銀の周り2.22Åに酸素が1.7個存在する局所構造を有することなどがわかった。一方、抗菌タイル中の亜鉛は2価であり、銀と同様に非晶質であるが、 Zn2SiO4に類似しており、亜鉛の周り1.96Åの位置に酸素が4個存在することがわかった。
  今後は、抗菌作用が発現している細菌の周辺の銀や亜鉛の状態をより詳細に調べ、抗菌メカニズム解明にアプローチしてゆく予定である。また、将来的には銀や亜鉛よりも埋蔵量が多く廉価な材料で新しい抗菌材料を開発することが目標となるが、その材料の評価にもこのXAFS法を活用できることが期待される。