生活文化・   猛毒物質を即時・高感度で分析する方法を開発
 エネルギー

 化学テロ発生時において,サリンやマスタードガスなどの猛毒化学物質を即時検知することは極めて重要である。現在使用されている現場で測定する機器は検出感度が低く,偽陽性の結果を与えることが多いなどの問題点がある。今回,逆流型大気圧化学イオン化タンデム質量分析装置を用いて,神経ガス,びらん剤や催涙剤などの化学物質を分析する方法を開発した。その結果,サリンの検出限界値は,致死濃度の1/250000 に当たる0.6μg/m3 であった。本法は他の難揮発性化学物質を含めた化学物質全般を高感度,特異的に検出でき,化学物質の現場設置型検出器として有用である。

【C1010】      

逆流型大気圧化学イオン化質量分析法による大気中猛毒性
化学剤のリアルタイム高感度検知

(科警研・日立製作所1・日立ハイテクコントロールシステムズ2))○瀬戸康雄・山口慎太郎・朝田隆二・大森 毅・金森美江子・大沢勇久・柘 浩一郎・奥村昭彦1)・高田安章1)・江沢直也1)・橋本宏明2) [連絡先:瀬戸康雄,電話:04-7135-8001]

  化学テロ発生時の現場対処や遺棄化学兵器処理の作業においては,サリンやマスタードガスなどの猛毒化学剤を高感度・即時検知することが求められるが,現在用いられているイオンモービリティースペクトロメーターなどの現場検知器は検知感度が低い,偽陽性が多いなど問題点が多い。逆流型大気圧化学イオン化タンデム質量分析(CFI-APCI-MSn)法は,大気試料を吸引後コロナ放電でソフトイオン化し,対象物の生成イオンを排気ガス方向とは反対方向に逆流させ質量分析部に導入するイオン化部と,多段のタンデム質量分析が可能なイオントラップ質量分析計部を合体させた計測技術であり,爆発物,薬物,ダイオキシンのフィールド検知に用いられている。本研究は,CFI-APCI-MSn技術を用いて神経ガス,びらん剤,くしゃみ剤,催涙剤などの揮発性,難揮発性化学剤の高感度検知法を開発することを目的とした。実験では,化学剤標品のn-ヘキサン溶液をテフロン内面保温容器内で気化させ湿度を調整したガスを質量分析計に吸引させ検知に処した。サリン蒸気に対しては,探索マーカーをm/z141イオンとして,順次解裂イオンをm/z 99,m/z 97とするMS3モードを採用することにより,検出下限値は致死濃度の1/250000に当たる0.6 mg/m3であり,特異的も高かった。マスタードガス蒸気に対しては,湿度の上昇とともにプロトン付加分子(m/z 159)は顕著にその検出量が低下したが,OH+付加分子(m/z 175)は低下の程度は小さかった。探索マーカーイオン(概ね水素付加分子イオン)と測定モード(MS2またはMS3)を適切に選択することにより,化学剤の検出下限は概ねサブmg/m3であった。CFI-APCI-MSn技術は,他の化学剤現場検知器では不可能な難揮発性化学剤の検知が可能である,化学剤全般の即時・高感度・特異的検知が可能であるという特徴があり,設置型化学剤現場検知器として有用であると思われる。