◆環境・防災◆  硫化水素混合系におけるシアン化物イオン分析システムの開発

 シアン化物イオンをイオン電極で分析するときには,共存の可能性の高い硫化水素をマスキングして測定する必要がある。本研究では,マスキング剤を使用しないで,高濃度の硫化水素を脱硫してシアン化物イオンを測定する方法を開発した。その原理は,硫化水素の沸点とシアン化水素の沸点の差に基づいている。シアン化水素は室温付近に沸点を持つので,シアン化水素の沸点以下の 0℃ 程度の低温でバブリングを行うと,硫化水素を除去できる。この脱硫操作の後の溶液をシアン化物イオン電極で測定すると,硫化物の影響を受けないで,高精度な測定が可能となる。

【C2022】         

低温曝気によるシアン化物−硫化物共存溶液脱硫方法の開発,
およびシアン化物イオン分析への応用

(東亜DKK) ○八谷宏光,内藤一臣[連絡者:八谷宏光,電話:0422-53-5114]

 シアン化合物はメッキ工場などで広く使用されている物質である.非常に強い毒性のために水質環境基準や排水基準などの規制値が定められ,排水,河川水,下水道水,浄水場取水口などで常時監視されている.連続測定が可能,安価などからイオン電極式シアン計が多く使用されているが,共存する可能性の高い硫化水素の影響を受け易く,マスキング剤を用いた硫化水素対策を施すケースが多くなっている.マスキング剤は測定対象物(シアン)への影響や有害性が懸念されるために添加量に限度があり,高濃度硫化水素が共存する現場などでは影響を回避できない事例も発生している.
本研究では,シアン化水素の沸点が硫化水素の沸点よりも高い常温付近(25.7℃)であることに着目し,無試薬でシアン化物−硫化物共存溶液から硫化水素を先行除去(脱硫)できる方法を開発した.0℃以上でシアン化水素の沸点よりも低い温度域の水溶液では,硫化水素は溶存ガスとして存在し,シアン化水素は液体成分として存在している.この条件下でバブリングなどの操作を行うことによって簡単に脱硫できる方法である.低温条件下での試験において,硫化水素は短時間で溶液中から除去され,シアン化水素は長時間にわたって残存することを示す結果が得られた.酸性溶液および中性溶液を検討し,両溶液ともに同様の結果となった.脱硫後の溶液をシアン化物イオン電極で測定し,硫化物の影響を受けない良好な測定が可能であることを確認した.硫化物の影響を確実に排除できる方法であり,シアン化物イオン分析での高精度化に有効な前処理法と考える.