◆新素材・   カラムのイオン分離機能を光で制御する新技術
先端技術◆

 光を外部刺激に使って,イオンの分離挙動を制御できる新しい光応答性イオン分離カラムを開発した.このカラムは,光応答性化合物であるスピロベンゾピラン(SP)と,アルカリ金属イオンを認識するクラウンエーテル部(CR)からなる認識部位が担体上に導入されている。18-クラウン-6 型のCR-SPカラムでは,暗時ではカリウムイオンのカラム保持能が高くなるのに対し,可視光を照射すると保持能が減少し,カリウムイオンの分離ができなくなる光可逆的な応答が見いだされた。この原理を利用すると,カラムのイオン分離能を光により可逆的に制御できる高度な分離技術への展開が期待できる。

【P1112】      

クラウン化スピロベンゾピランを用いる光制御型イオン分離カラムの開発

(和歌山大システム工) ○中原佳夫・山口裕己・坂本英文・木村恵一
[連絡者:木村恵一, 電話:073-457-8254, E-mail:kkimura@sys.wakayama-u.ac.jp]

 クロマトグラフィーはあらゆる分野で利用されている分離技術であり、最近では環境面や経済面への負荷を軽減させることを視野に入れた技術開発が盛んに行われている。電気、熱、磁場、圧力等に比べて光は簡便に利用でき、迅速かつ顕著な効果が期待できる外部刺激である。従って、クロマトグラフィーの分離システムを光により制御することができれば、その結果、大きな時間的削減、経済的軽減、効率の飛躍的な上昇が可能になると考えられる。
 本研究では、光応答性化合物であるスピロベンゾピラン (SP) と金属イオンを認識するクラウンエーテルを併せ持つクラウン化スピロベンゾピラン, CR-SP) を化学的に結合したシリカゲルを固定相に用いた光制御型イオン分離カラムの開発を行った。CR-SP は紫外光照射時(または暗時)では SP が持つ負電荷が金属イオンと強く相互作用するため高い金属イオン認識能を有するが、可視光照射を行うと SP の構造が変化して負電荷が消滅するため、金属イオン認識能は劇的に低下する。

 成果の一例として K+ を認識する 18-クラウン-6 を有するCR-SP について以下に述べる。移動相にメタノール、試料に 5.0 x 10-4 M の Li+ と K+ 硝酸塩のメタノール溶液、カラムに内径 3.0 mm・長さ 50.0 mm のパイレックスカラムを用いた時、暗時では、K+ が良好に保持された明確な分離を確認した。その後、カラムに可視光照射を行い同様の測定を行うと、暗時で確認された分離した挙動は確認されなくなった。さらに紫外光を照射または可視光の照射を停止することで、可視光照射前と同様の明確な分離へと戻った。これらの可逆的な変化は、SP 部位のメロシアニン体-スピロピラン体の異性化に伴う金属イオン認識能の変化によるものであると考えられる。この原理を利用すれば、イオン分離能を光により制御できる高度な分離技術への展開が期待できる。

図 光照射により金属イオンと相互作用が
  大きく変化する新しい分離カラム