◆新素材・   レーザーを利用して電極表面の活性を保つ新しい電気化学測定法
先端技術◆

 固体電極を用いる連続測定では,電解生成物の吸着による電極の不活性化がしばしば問題となる。本研究では,レーザーパルスのアブレーション作用によって電極表面から吸着物を剥離させ,電極の活性維持と優れた再現性を実現した。本法を直流ボルタンメトリーによる海底火山近傍の海水中の硫化物イオン定量へと応用するために基礎検討を行い,0.2 mM の定量下限を得た。この"Laser Pulse Sampled DC Voltammetry (LPSDCV)"は,連続その場分析や長時間のモニタリングに有効であると考えられ,今後の発展が期待される。

【E1006】    

連続その場分析のための銀電極を用いる硫化物イオンのレーザー
パルスサンプルドDCボルタンメトリーの検討

(信州大理1・高知大海洋コア2・紀本電子工業3)○樋上照男1・新海正也1・岡村慶2・
紀本岳志3 [連絡者:樋上照男,電話:0263-37-2474]

 固体電極を用いた電気化学測定で,電解生成物による電極の汚染(不活性化)は大きな問題である。本研究室では,この問題を解決するためにレーザーを利用した新しい電気化学測定法“Laser Pulse Sampled DC Voltammetry(LPSDCV)”を開発した。LPSDCVはレーザー作用の一つであるアブレーション作用を利用した測定法である。図にアブレーション作用の概念図を示す。電解生成物が電極表面を汚染しやすい場合,電解が進むにつれて(A)に示すように電極表面が電解生成物で覆われる。この状態では,活性な電極表面が減少し,測定の再現性が悪くなったり,場合によっては測定そのものが行えなくなったりする。この状態にレーザーパルスを照射すると,アブレーション作用により(B)に示すように汚染物質もろとも電極表面が剥離され,活性な電極表面が更新される。そのため,測定中においても常に活性な電極表面を保つことが可能となり,実験の再現性が向上する。
 本研究では,海底火山周辺に存在する硫化物イオン(S2-)の銀電極上での硫化銀生成による定量を試みた。この方法では硫化銀が析出するために銀電極表面の状態は刻々と変化する。銀電極を用いるLPSDCVでS2-の定量を検討したところ,電極表面が一定の状態に保たれ,再現性のよいボルタモグラムが得られた。また,ボルタモグラムにおける限界電流値はS2-濃度に比例し,現段階での定量下限は0.2 mMであった。今後は,実際の海洋化学の調査に連続その場分析の可能な本法を応用する予定である。