◆医療・生命◆   肝機能の指標となるγ-GTPの活性値をその場で目視計測

 肝機能の指標であるγ−GTP の活性値を簡便にその場で目視計測できる新しい分析技術を開発した。γ−GTP の活性値を医療機関でその場で目視計測できれば,検査結果を知るためだけの再受診が不要になる。本法は,金ナノ粒子と熱応答性高分子の複合体が,最初は凝集して青色を呈するのに対し,γ−GTP によるグルタチオンの分解反応で生成するシスティニルグリシンが,金ナノ粒子複合体と相互作用することで金ナノ粒子の分散を引き起こし,溶液が青色から赤色に変化する現象を利用したものである。一定時間後の溶液の色調を目視で判断して,γ−GTP の活性値を知ることができる。

【F1006】  

熱応答性高分子を複合化した金ナノ粒子を用いるγ−GTPの活性測定

(宇都宮大学院工・日産アーク1)上原伸夫,大久保幸輝,野呂純二1,清水得夫
[連絡者:上原伸夫,電話:028-689-6166]

 γ−GTP(ガンマ?グルタミルトランスペプチターゼ)は肝臓の解毒作用に関係している酵素である。過度の飲酒によりその値が上昇することから,肝臓の働きを知る検査項目として一般にも良く知られている。γ−GTPの測定を医療機関で簡便に行うことができれば,初回診療時における診察の判断の助けになるだけでなく,検査結果を知るためだけに再受診するという患者の負担を減らすことができる。
 
γ−GTPは,グルタチオンをシステイニルグリシンとグルタミン酸に分解する作用も合わせ持つ。本研究では,この分解反応に関与するグルタチオンとシステイニルグリシンとに着目した。この反応の進行する速さを視覚的に観察することで,γ−GTPの活性を計測する方法について検討した。すなわち,γ−GTPの活性が高い程,反応の進行が速やかになる。反応の進行を視覚的に観察する手段として,熱応答性高分子を金ナノ粒子に複合化した金ナノ粒子複合体を用いた。金ナノ粒子複合体は分散状態にあるときには赤色を呈し,凝集状態にあるとき青色を呈する。今回用いた金ナノ粒子複合体は,はじめは凝集状態にあるため青色を呈しているが,グルタチオンやシステイニルグリシンが加えられると自発的に分散し,時間が経過するにつれて赤色を呈するようになる。この色調の変化は,グルタチオンでは遅く,システイニルグリシンでは速やかに起こる。

 γ−TPによるグルタチオンの分解反応を行っている溶液に金ナノ粒子複合体を加えておくと,分解反応の進行とともにシステイニルグリシンの量が増え赤色への変化が促進される。この原理に基づき,一定時間後の溶液の色調を目視で判断することにより,γ−GTPの活性を知ることができる。金ナノ粒子複合体による色調変化を巧みに利用することで,γ−GTP以外の生理活性物質の計測にも展開が期待できる。