◆環境・防災◆       鍾乳石の年輪から酸性雨の歴史を解明
 土壌中に存在する腐植物質であるフルボ酸は、酸性降水の浸透により、地下の鍾乳洞内に排出され、鍾乳石の成長過程に影響を及ぼす。夏季に排出量が多いため、夏季と冬季の違いが鍾乳石に年輪として現れる。本研究では西表島の鍾乳石の成長方向に紫外線を照射してフルボ酸濃度を蛍光顕微鏡により測定し、鍾乳石の年輪を求めた。また、鍾乳石の化学分析から鍾乳洞内の滴下水中の硫酸イオン濃度が1990年代初頭から徐々に増え始め、現在と50年前とを比較すると、約5ppm増加していること、鍾乳石の年輪に近年の酸性降下物量の増加の記録が残されていることを見出した。

【B1007*】   鍾乳石から西表島の酸性雨の歴史をよむ

(九大院理・鹿児島大農1・総合地球環境学研2)○吉村和久・畑江久美・
栗崎弘輔・井倉洋二2・高相徳志郎3
[連絡者:吉村和久、電話:092-726-4743]

 人為的な環境変遷の歴史を読み取るためには、過去の環境情報を記録した材料を用い、その材料に絶対時間軸を入れることが重要となる。自然豊かな沖縄県西表島には年間平均pH 5以下の酸性雨が降っている。中国大陸からの酸性物質の長距離移流が予想されるが、酸性雨が顕著になった時期に関する情報はない。西表島の地質は酸の負荷に対して脆弱であることが予想されるため、酸性降下物による自然環境への今後の影響を予測する上でも、この情報は非常に重要である。本研究は、西表島の鍾乳洞から採取した現在も成長を続けていた長さ15 cmの石筍を用い、腐植物質(とくにフルボ酸)由来の年縞の蛍光顕微鏡観察から鍾乳石の絶対年代を見積り、年代が確定した部分の硫酸イオン濃度から酸性雨の歴史の復元にはじめて成功したものである。

 鍾乳石の成長速度の見積り:フルボ酸は土壌中に存在する腐植物質の一種で、夏季に多く排出される。このため、鍾乳石を形成する滴下水中のフルボ酸濃度の夏季と冬季の違いが炭酸塩の年縞となって現れる(図参照)。成長方向に2 mmずつ移動させながら紫外線を照射して、フルボ酸濃度に違いにより変化する蛍光強度を蛍光顕微鏡を用いて観測し、その変動から年縞の成長幅を見積ることができた。その縞の幅から見積った平均成長速度は0.05 mm/年であった。
 酸性雨の歴史の復元:数年分をまとめて粉末にした鍾乳石試料中の硫酸イオン濃度を測定したところ、現在15 ppmである滴下水中の硫酸イオン濃度は、1990年代初頭から徐々に増え始め、50年前と比較すると約5 ppm増加していることがわかった。西表島の石筍には、近年の酸性降下物量の増加に伴った硫酸イオン濃度の増加が記録されている可能性が高い。