◆新素材・   高輝度放射光X線と時分割蛍光X線分光器を利用して 
先端技術◆        化学状態の変化を動的に観察する

 物質にX線を照射して得られる蛍光X線スペクトルには、元素の種類や量だけではなく、価数や化学状態についての情報が含まれる。物質の化学状態を知ることは重要であるが、従来の装置では安定な化学状態しか測定できなかった。そこで刻々と変化する化学状態を観察するため、試料、光学系を固定した状態でスペクトル取得が可能な時分割蛍光X線分光器を開発し、SPring-8の高輝度放射光X線を利用して測定を行った。UV照射下や光触媒の共存下でフェリシアン化カリウムの蛍光X線スペクトルを測定し、鉄が還元される様子をライブモードで検出することに成功した。

【D2003】    時分割蛍光X線分光器の開発と化学変化モニタリングへの応用

(物質・材料研究機構、JASRI/SPring-81) 桜井健次・水沢まり・井上勝晶1・八木直人1
[連絡者:桜井健次,電話:029-859-2821]

 X線を物質に照射すると、その物質に含まれる元素のそれぞれに固有の波長のX線(蛍光X線)が放出される。この蛍光X線スペクトルを更に精密に調べると、元素の種類や量だけでなく、価数や化学状態についての情報も得られるが、従来の蛍光X線分析装置では、スペクトルを取得するために分光結晶や検出器の角度を走査する必要があり、測定時間もかかるため、安定な化学状態についての静的な検討に限られていた。本研究では、SPring-8 のBL40XU において高輝度放射光を利用するとともに、試料、光学系を完全に固定した状態でスペクトル取得ができる時分割蛍光X線分光器(図1)を開発することにより、時々刻々変化する化学状態の動的な分析の可能性を検討した。

図1において、分光器には調整機構(緑矢印)が備わっているが、測定前に用いるのみであり、スペクトル取得は、どの部分も動かすことなく行なう。蛍光X線は、放射光が照射された試料上の1点から全方向に放出されるが、分光結晶から見ると、分光結晶上の位置により蛍光X線の入射角度が異なり、従って回折される角度も異なるため、ちょうどプリズムのように波長別に分解され、CCDカメラ等を用いると、広い範囲のスペクトルを一度にまとめて取得することができる。測定は、いわば常にライブモードであり、試料チャンバー内の環境を制御し、in-situで蛍光X線スペクトルが得られる。本研究では、図2に示すように、UV照射下、光触媒の共存のもとで生じるフェリシアン化カリウムの還元反応を蛍光X線スペクトルの変化として検出することに成功した。