◆医療・生命◆ 左手型アミノ酸と右手型アミノ酸の精密測定から生命の起源を探る

 アミノ酸には左手型と右手型があるのに、地球生物は左手型のみを使うようになったのは、何らかの原因で両者に僅かな差が生じたからと考えられている。本研究では、クロマトグラフィーによる、この2種類のアミノ酸の1%未満の差の検出法を検討した。次にこの方法を用い、模擬宇宙環境下で合成した有機物に特殊な紫外線(円偏光)を照射することにより、2種類のアミノ酸量にわずかな差が生じることがわかった。この結果は、宇宙において円偏光の作用により左手型のアミノ酸の割合がわずかに多くなり、それをもとに地球生命が誕生した可能性を示唆している。

【E1005】  HPLCおよびGCによるアミノ酸のエナンチオ比分析とその化学進化研究への応用

        (花王株式会社 栃木研究所1・東京研究所2)○中村俊1・近藤直樹1・
              高須義雄1・松井祐司2・渡辺卓也2・増川克典1
              [連絡者:増川克典、電話:0285-68-7416]

 アミノ酸には左手型(L体)と右手型(D体)があるが,地球生物のタンパク質合成にはL体のみが用いられる。これは生命の起源を考える上で最大の謎のひとつである。これまで種々の方法でアミノ酸の一方のみを選択的に合成,あるいは分解しようとする試みがされてきた。ここで,アミノ酸のL体とD体の差を精密に分析する必要がある。例えば、L体が50.2%、D体が49.8%の時、その差(エナンチオ過剰)は0.4%であるが、この程度の差が有意であることを証明する必要がある。われわれは,種々のアミノ酸の光学異性体の分離分析法(HPLC法2種、GC法2種)についての比較を行い,生命の起源研究への応用の可能性を考察した。
 調べた4つのうちの3つの方法で、アラニンのD体とL体の良好な分離ができ、エナンチオ過剰0.4%程度の検出が可能とわかった。これらの方法を生命の起源の模擬実験に応用した。まず、暗黒星雲での反応を模して、一酸化炭素・アンモニア・水に陽子線を照射して高分子状の有機物を作製した。この物質の原子間力顕微鏡のイメージを図1に示す。これに中性子星から発せられると考えられる「右(または左)円偏光」を照射した後、加水分解すると種々のアミノ酸が生成した。この中のアラニンのエナンチオ過剰を、今回の方法で測定したところ、左(右)円偏光照射により、0.5%前後のL(D)体の過剰が検出された。この結果は、地球生物の「左利き」の起源が宇宙からきたものである可能性を示唆するものである。