◆医療・生命◆    クロロゲン酸分析でコーヒーの新しい生理機能を探る

 コーヒーに含まれる植物ポリフェノールのクロロゲン酸類は、抗酸化・抗発がん・血圧改善作用などの生理活性が知られている。これまでクロロゲン酸類のヒトでの体内動態は明らかではなかった。従来法では検出器の感度が不十分であったが、前処理方法と分析方法を改良し、HPLCの検出器にタンデム質量分析計を用いることにより、コーヒー飲用後の血中のクロロゲン酸類とその代謝物11成分を高感度に検出し、定量することが可能となった。世界中で愛飲されているコーヒーの新たな生理機能・健康機能の解明に有用である。

【F1018】       LC/MS/MS法による血中クロロゲン酸類の定量

(花王株式会社 栃木研究所1・東京研究所2)○中村俊1・近藤直樹1・
高須義雄1・松井祐司2・渡辺卓也2・増川克典1
[連絡者:増川克典、電話:0285-68-7416]

 植物ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸類は抗酸化・抗発癌・血圧改善作用などの様々な生理活性を有することが報告されている。中でもクロロゲン酸類を豊富に含んでいるコーヒーは全世界で愛飲されていることから、コーヒー飲用時にヒト体内に吸収(代謝)されたクロロゲン酸類の生体への作用・効果を調べることは非常に意義深いものである。これら作用を調べるためには、クロロゲン酸類を摂取したときの血液や尿における濃度やその時間的推移、すなわち体内動態を明らかにしていく必要がある。しかし、ヒトを対象とした研究において、血中のクロロゲン酸類を定量したという報告はこれまでになされていなかった。これは従来行われてきたサンプル前処理や液体クロマトグラフィー(HPLC)−電気化学検出の組み合わせによる測定法では感度が不十分であるためであった。本研究は、高感度・高選択的な検出が可能であるタンデム型質量分析計(MS/MS)を検出器として用い、コーヒー飲用後の血中に存在する微量のクロロゲン酸類9成分及びその代謝物2成分、計11成分を高感度、かつ同時に定量可能な測定法を開発したものである。
 本定量法開発のポイントは、?11成分を同時に高感度検出するためのプロダクトイオンの選択と検出部及びイオン源の各パラメーターの最適化、?同じ分子量を有するクロロゲン酸類の構造異性体を完全分離できる逆相グラジエントLC条件の最適化、?ヒト血漿試料から除タンパクを行うための過塩素酸及びアセトニトリルを用いた前処理条件の最適化であった。本定量法を用いてコーヒー飲用後のヒト血漿中のクロロゲン酸類及び代謝物を分析した結果、対象である全11成分が定量可能な濃度として検出され、本定量法はクロロゲン酸類のヒトでの体内動態を調べるツールとして有用であることが証明された。
 今後、今回開発された定量法を利用することにより、クロロゲン酸類の生理機能・健康機能を明らかにしていくことが望まれる。