生活文化・     養 殖 カ キ で 環 境 を 観 る
 エネルギー

 宮城県産の養殖カキと韓国産の養殖カキは由来が同じであることから,カキ中の元素分布の
違いから生育環境の違いを推測することができる.本研究では,放射化分析法によって双方の
マガキの各器官中に含まれる微量元素のうち8元素(銀,コバルト,クロム,鉄,ルビジウム,
アンチモン,セレン及び亜鉛)を定量した.その結果,韓国産のカキには宮城産のものに比
べ,銀,クロム及びセレンの含有量が多く,生育環境によって元素濃度に差異があることが明
らかになった.このような取り組みは,食品の安全性や生体内での元素の蓄積の機構を解明す
るうえで重要である.

【H1001】      宮城県および韓国産養殖マガキの多元素分析

(石巻専修大理工・京都大原子炉)○福島美智子・中野幸廣
[連絡者:
福島美智子、電話:0225-22-7716

 宮城県の松島湾、石巻湾および県北の南三陸海域はマガキの養殖がさかんで、高品質の養殖
マガキを全国に出荷している。現在の韓国産養殖マガキは宮城県産の種ガキを繁殖させたもの
であるので、宮城県産と韓国産養殖マガキの元素濃度の差異は、生育環境の違いを反映してい
ると考えられる。そこで、養殖海域のあきらかな宮城県産および韓国産養殖マガキ軟体部を分
析し、生育環境の違いによる元素濃度に差異が生じるかどうかを検討してみた。元素の分析方
法に中性子放射化分析法を用いた。この方法は、乾燥粉末の多元素同時分析が可能であり、元
素の化学形の影響を受けずに多くの元素に対して高感度な分析を行える方法である。
 分析試料は宮城県の松島湾、高城川河口、東名浜、気仙沼大島の4カ所、韓国の南部に位置す
る巨済市西部および固城郡南部海域の2カ所で養殖されたマガキを用いた。東名浜の試料につい
ては、1m、6m、11mの異なる海深で養殖されたマガキを使用した。簡単に水道水で洗浄後、殻か
ら軟体部をはずし、セラミック製ハサミで外套膜、エラ、閉殻筋、肝すい腺に分離し、凍結乾
燥後、ミルで粉砕した。得られた乾燥粉末約0.5gをポリエチレンシートに二重に封じ、比較標
準物質および分析対象元素の濃度既知の標準試料とともにポリエチレンカプセルに封入した。
京都大学原子炉実験所の中性子炉で1−60分間の中性子照射を行った。照射後に適切な冷却時間
を設定し、十分に測定可能な放射能レベルに下がったのちに、生成核種のガンマ線を測定し
た。標準試料の比放射能との比較から分析試料中の元素濃度を算出した。Ag, Co, Cr, Fe, Rb,
 Sb, Se, およびZnの8元素について分析したところ、韓国産の試料は宮城県産の物に比べて
Ag, Cr, Seの濃度が高い傾向を示した。宮城県産の異なる4養殖海域および韓国産の2養殖海
域のマガキは、たがいに元素濃度が異なり、生育環境によって生体内に蓄積される元素濃度に
差異が生じることがあきらかになった。
 一般にAg、CrやSeは毒性元素として知られており、食品であるマガキ軟体部にこれら元素が
含まれている、という報告をすると、食品の安全性を危惧する声を聞くことがあるが、元素の
毒性は存在化学形によって異なる。そのため、食品の安全性や生体内での元素の蓄積の機構を
明らかにするため、さらに存在元素の化学種分析が必要であると思われる。