◆環境・防災◆   アマガエル臓器中の水銀濃度からみた重金属汚染マーカーの有用性

 全国39道府県で採取されたアマガエル約1,000個体の内143個体の臓器を取り出し,加熱気化−原子吸光法で臓器中の水銀濃度を定量した.肝臓,胃腸,腎・生殖器,筋肉,背骨中の水銀を定量した結果,肝臓がもっとも高濃度であり,また,20〜2,410 ppbと広い濃度範囲に分布していた.肝臓と他臓器との水銀濃度の相関関係が高いことから,アマガエルの臓器の水銀濃度は狭い生息環境の汚染状況を反映していると思われる.すなわち,限定された地域の生態系の重金属汚染を評価するマーカーとしてアマガエル臓器中の水銀濃度が有用であることが示唆された.

【C2016】 わが国のアマガエル臓器中の水銀濃度とその環境汚染マーカーとしての有用性

(近畿大理工)○山崎秀夫・森紗綾香・市川智博・南武志
[連絡者:山崎秀夫, 電話:06-6730-5880]

 環境に排出された重金属元素は分解して消滅することがないので,時代と共に土壌や底質に蓄積されていく.そのために,汚染土壌の生体に対する重金属曝露源としての重要性が,近年再認識されつつある.本研究では我々と生活圏が重複し,汚染土壌と濃密に接触,生息しているアマガエルに着目し,その重金属汚染マーカーとしての有用性について評価した.アマガエルは全国39道府県の小中高校理科クラブによってそれぞれの地域から採取され,1000個体以上が集まった.現在,様々な解析が行われているが,ここでは水銀の分析結果を紹介する.
 本学に送られたアマガエルは解剖して,加熱気化-原子吸光法で臓器別に水銀を定量した.現在までに143個体の分析を完了したが,その水銀濃度(ppb)は肝臓(288±326),胃腸(139±165),腎・生殖器(116±181),筋肉(116±133),背骨(81±71)であった.最も高濃度を示した肝臓の場合,その濃度は20〜2410ppbの広い範囲に分布した.肝臓と他臓器の水銀濃度は高い相関関係を示した.また,図に示すように地域ごとの水銀濃度も個体差が大きく,必ずしも産業活動が活発な地域で高濃度を示すわけではない.これはアマガエル臓器の水銀濃度がその狭い生息環境の汚染状況を反映していることを意味している.即ち,アマガエルは限定された地域における生態系の重金属汚染を評価するためのマーカーとして有用であるといえる.

図 日本各地のアマガエル肝臓中の水銀濃度(3〜5匹を分析した平均値と偏差)