◆環境・防災◆     環境中の小さい分子と大きい分子を同時に測定できる
            高性能小型質量分析計の開発

 分子の大きさ(分子量)を直接測定できる質量分析法は,環境分析になくてはならない方法である.これまでの質量分析法では,成分毎に分離してからでないと測定できない,測定時に分子が壊れてしまう,大型の装置を必要とする,などの問題があった.本研究では,試料分子にアルカリイオンを付着させてイオン化する方法を用いることにより分子を壊さずに広い分子量範囲の分子を同時に分析できる,小型軽量の質量分析装置を開発した.本装置を用いれば,気体試料のみならず,固体状の試料も直接計測できるため,土壌中の有害規制対象物質の直接測定への応用が期待できる.

【D1004】  イオン付着飛行時間質量分析法(IA-TOF-MS)の開発

(産総研計測フロンティア1・東理大理工2・キヤノンアネルバテクニクス3
○齋藤直昭1・南條純一1,2・種田康之3・塩川善郎3
[連絡者:齋藤直昭、電話:029-861-5742]

 環境汚染や資源枯渇問題などに関連し、大気・土壌等に含まれる有機系物質の分析は大変重要です。従来の分析法では、複合試料を直接に分析できず、まず、前処理で各成分に分離します。次いで、各成分ごとに四重極質量分析法等で質量分析しますが、重い質量の成分は計測できません。また、高精度分析には特別な大型装置が必要です。我々は、試料を前処理無しに直接・迅速に、軽い分子から重い分子まですべての成分(広質量範囲)を、高精度(高分解能)で分析できる新質量分析技術を研究開発しています。今回、可搬型を念頭に、卓上サイズの質量分析システムを開発しました。
 質量分析の原理は、?試料をイオンにする(イオン化)、?イオンを電場や磁場中で運動させて質量ごとに分離する(質量分離)ことです。従来のイオン化法では、イオン化と同時に試料分子が壊れる(分子開裂)という問題があります。本システムでは、試料分子にアルカリイオンを付着させ、試料分子を壊すこと無くイオン化できるイオン付着法(IA法)を採用しました。質量分離は、高い分解能、広い質量範囲という特徴を持つ飛行時間質量分析法(TOF-MS)を用います。通常、TOF-MS方式は大型装置でないと高い分解能が得られませんでしたが、この克服に成功しました。
 ガス状試料だけでなく、固体状試料の計測を行いました。大気中物質の計測を模擬したベンゼンの計測では、分子開裂無しのイオン化、高精度の計測に成功しています。また、廃棄物処理場などを模擬した、ポリスチレン試料加熱時の発生ガス分析では、軽い分子から重い分子まですべての成分(広質量範囲)のリアルタイム計測に成功しています。また、固体材料に含まれる有害規制対象物質などの計測にも成功しています。

小型質量分析器による、その場、迅速・直接、
高精度、全成分質量分析