◆新素材・  カルシウムイオンを画像化できるMRI(磁気共鳴画像装置)用新規造影剤の開発
 先端技術◆

 病気の早期発見や診断に用いるMRIは,体内部の状態を患者にほとんど負担を与えずに知ることができる.しかしMRIは人体中の水分子の水素を観測するため水以外の成分を観測することはできない.著者らは生体内で重要な働きをするカルシウムイオンをMRIによって観測するための新規造影剤を開発した.本MRI用造影剤がカルシウムイオンを捕捉すると水分子が造影剤に近づけなくなるため,結果的に水素の濃度が低くなることを利用して画像化するものである.本造影剤は安全性の高いガドリニウム錯体を基本としており,ガンや血栓の発見や疾病の早期発見が期待される.

【P2050】    新規MRI probeの設計・合成と応用(9) 生体内イオンの測定

((慶大理工1・慶大医2・JST-CREST3・KAST4)○一二三洋希1・牧野恵1・谷本伸弘2
本田亜希3・小松広和1・鈴木孝治1,3,4
[連絡者: 鈴木孝治, 電話:045-566-1568]

 健康診断や人間ドッグといったの病気を見つけるための診断や手術前後の診断において、メスなどで体を傷つけることなく体内部の状態を知ることができる画像診断は、検査を受ける方や患者の方への負担がほとんど無いため、医療現場における重要性は日々高まっている。現在、この画像診断を行なうときには、MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層装置)がよく用いられているが、MRIは被爆が全く無い画像診断法であるのに対し、CTではX線による被爆を避けることができないという欠点を持っている。この理由から、MRIは非常に優れた画像診断法であるが、主に人体に高濃度に存在する水分子H2Oの水素原子Hを観測しているため、低濃度の物質を観測することはできておらず、そのような物質を観測することができる装置や薬剤が求められている。

 本研究は、ヒトが生きていく上で欠かすことのできない、また、癌や心筋梗塞を始めとする様々な病気に関わっている生体内イオン(カルシウムイオンCa2+、カリウムイオンK+)をMRIで画像化することのできるようにする造影剤の開発に関するものである。これまで、生体内イオンの多くは体内に低濃度しか存在せず、しかも、MRI装置で検出することは原理的に不可能とされてきた。我々は、「イオンの存在量を、MRIで観測しやすい水分子に置き換える」という戦略によって「MRIによるイオンの画像化」に成功した。そのために開発した造影剤は、現在医療現場で最もよく用いられている安全性の極めて高いガドリニウム錯体を基本としており、その両腕にイオンを捕まえることのできる認識部位をつなげた構造になっている。造影剤がイオンを捕まえると、水分子が造影剤に接近することができず、この差をMRIによって画像化することに成功した。癌細胞などの病変部の周辺ではカルシウムイオンが、血栓においてはカルシウムイオンの濃度が一時的に変化することが知られているため、これらの疾病の早期発見が期待される。
図 イオン検出用MRI造影剤