◆新素材・   酵素を強固に固定化できる微小磁性粒子を利用したバイオセンサの開発
 先端技術◆

 医療の現場では,グルコースやコレステロールなどの生体成分を正確且つ迅速に分析することが重要である.これらの分析には,酵素を用いたバイオセンサが用いられているが,最近では,より簡便な分析法を確立するため,この酵素を微小なチップに固定化する技術の開発が進められている.本研究では,非常に微小な磁石に酵素を固定化したバイオセンサを開発した.このセンサでは,グルコース,L-グルタミン酸,コレステロールを測定することができる.本法はマイクロチップへの導入も容易であり,種々の病理検査チップ作成のための新技術として期待される.

【H1008】    磁性アパタイトナノ粒子の特性を利用したフローインジェクション
         バイオセンサシステム

(阪府大院工)○市成祐一・川村邦男・八尾俊男
[連絡者: 八尾俊男, 電話:072-254-9285]

 バイオセンサは、酵素や抗体など生体機能性分子を固定化したレセプター部位と、そこで得られた物質量に基づく化学的変化を電気信号に変換するためのトランスデューサー部位とから構成されている。一般的に、センサの応答の特異性はレセプター部位での反応の特異性により、センサの感度はトランスデューサー部位の感度による。
 近年、このようなバイオセンサの実用化に伴い、サイズの微小化(チップ化)と、酵素などを簡単に固定化できる技術の開発が望まれている。そこで、本研究では磁性アパタイト粒子に酵素分子やアビジン分子を強固な静電相互作用により固定化させ、磁石を用いて電気化学フローセルに保持したフロー型バイオセンサを作製し、種々の基質の分析に適用した。酸化鉄微粒子に被覆したヒドロキシアパタイト表面には、アミノ酸やポリペプチドの酸性基(-COO-)を吸着するCa+サイトと、塩基性基(-NH3+)を吸着する陰イオンサイト(HPO42-, PO43-, OH-)がある。種々の検討の結果、中性付近のpHで負電荷を有する酵素よりはむしろ正電荷を有するアビジン分子を効果的に吸着することがわかった。そこで、磁性アパタイトナノ粒子(粒子径:約200 nm)にアビジン分子を静電的相互作用により吸着固定化し、次いでビオチン標識酵素を生物親和結合で固定化する簡便な方法を開発した。

 酵素として分子量、等電点の異なるグルコース酸化酵素、L-グルタミン酸酸化酵素、コレステロール酸化酵素を選び、それぞれグルコースセンサ、L-グルタミン酸センサ、コレステロールセンサを作製し、特性を評価した。
 本法は多チャンネルマイクロチップへの酵素固定化部位の簡便な作製法として有用であり、種々の病理検査チップへの応用が期待できる。また、酵素の固定化のみならず、抗体やDNA分子の固定化にも適用でき、免疫チップやDNAチップへの応用も期待できる。