◆医療・生命◆    卵子細胞の呼吸計測による新規細胞活性評価法

 体外細胞培養技術は畜産・医療分野などで応用され始めている.しかし本法は成績効率が低く,安全性についても危惧されている.これは体外培養に用いる正確な細胞の活性評価システムがないためである.そこで著者らは走査型電気化学顕微鏡を用いて生きたままの細胞の呼吸を,細胞を傷つけることなく計測する方法を開発した.本法によりウシ卵子−卵丘細胞複合体の呼吸活性を測定したところ,呼吸活性は卵子の成熟能の指標となり,これは従来の目視評価よりも有用であることがわかった.呼吸計測により直接的な細胞活性測定法として今後の展開が期待される.

【P2040】      走査型電気化学顕微鏡によるウシ卵子の呼吸代謝機能計測


1東北大院環境, 2東北大先進医工,3機能性ペプチド研) ○齋藤剛史1・阿部宏之2・横尾正樹2
佐々木隆広2・星宏良3安川智之1・珠玖仁1・末永智一1
[連絡者:末永智一, 電話 : 022-795-7281]

体外培養技術の向上に伴い、畜産分野・医療分野への応用が目立つようになってきた. しかしながら, 体外培養技術による成績効率は未だ非常に低く, 安全性などの面でも危惧されている.要因としては, 体外培養に用いる細胞の活性評価システムが無いという問題点が挙げられる.そこで,我々の研究グループは,電気化学測定法の一つである走査型電気化学顕微鏡(SECM)を用いた細胞呼吸計測法により, 生きたままの細胞の呼吸活動を傷つけることなく(非侵襲的)測定できるシステムを開発してきた(図1). 本研究では、ウシ卵子という発生初期の細胞を用いて, その呼吸能と卵子が正常に発生するための能力を有しているかどうかの品質の関係を明らかにする事を目的とし胚発生前の段階での品質診断システムの構築を目指した. 本研究で用いたウシ卵子には様々な状態の卵子がある. ウシ卵子の周囲には, 卵丘細胞という卵子の保護や受精に必要な機能をもつ細胞が付着しており, その細胞の付着状態により従来は選別を行ってきたが, 観察者の主観的な要素から非常に曖昧であることが指摘されている. 演者達は, 4つのカテゴリーに分けた卵丘細胞-卵子複合体(COC)(Aランク:卵丘細胞が5層以上, Bランク:卵丘細胞3-4層, Cランク:卵丘細胞1-2層, Dランク:裸化卵子)とそれらの卵子の評価をした所,呼吸能が高いCOC内の卵子は、高い成熟能を有するクオリティー良好卵子であることが明らかになった. また, ミトコンドリアの局在を観察した結果,ランク毎のミトコンドリアのクラスターが卵細胞質周囲に多く分布しており、CランクDランクとは異なった分布傾向であった. このように呼吸活動とウシ卵子の細胞内でおきている現象が一致していることが解明された. この技術は, 多くの技術者にとって朗報であり, 畜産関係者・細胞を取り扱う研究者や臨床研究に携わる医者といった様々な分野の人達のツールとして今後の展開が期待できる.