◆医療・生命◆ SPR(表面プラズモン共鳴)イメージングで細胞内の情報伝達を効率的に検出

 タンパクのリン酸化は細胞内情報伝達に大きく関わっている.細胞内のリン酸基転移酵素は脱リン酸化酵素と共役して働くことで,細胞周期,代謝,分化などを精密にコントロールしている.リン酸化‐脱リン酸化のサイクルは,分子のON-OFFシグナルと考えられる.2次元SPRイメージング装置を用いてリン酸化ペプチドを固定した基板にリン酸基を認識する物質を作用させ,細胞内リン酸化シグナルを検出するシステムを開発した.リアルタイムに複数の相互作用を解析でき従来法に比べ効率的であることから,遺伝子機能解析や薬物スクリーニングへの応用が期待される.

【F2003】   2次元SPRイメージング装置を利用した細胞内シグナル動態解析法の開発

(九大院システム生命1・九大院工2・東洋紡3・CREST, JST4・九大未来化セ5
○井上雄介1・園田達彦2・新留琢朗2・稲森和紀3・片山佳樹2,4,5
[連絡者:片山佳樹, 電話:092-802-2850]

 ヒトのからだは60兆を超える膨大な数の細胞から構成されており、これらの細胞は細胞内情報伝達系という特有の反応カスケードを経て的確な応答を行っている。
 本研究では細胞内情報伝達の代表的なシグナルとして知られているタンパク質のリン酸化に着目し細胞内でのリン酸基転移酵素(プロテインキナーゼ)のシグナル動態を網羅的に解析できる手法の開発を試みる。プロテインキナーゼによるリン酸化反応は、脱リン酸化酵素 (プロテインフォスファターゼ) による脱リン酸化反応と可逆的に起こり、このリン酸化-脱リン酸化反応によって、細胞増殖と分化、細胞の形態と運動、細胞周期、代謝、転写活性など、細胞内情報伝達の多くが行われる。検出機器としてはラベルフリーかつリアルタイムに複数の相互作用を解析することができる2次元SPRイメージング装置 (東洋紡; MultiSPRinterTM) を利用した。具体的にはプロテインキナーゼの基質として振舞う可能性を有する様々なペプチドを金薄膜に固定化し、ある化合物刺激を与えた細胞破砕液を作用させる。その後、SPR測定において抗リン酸化アミノ酸抗体、あるいはリン酸基認識プローブを作用し基板上のリン酸化ペプチドを検出することで化合物刺激に応答した細胞内リン酸化シグナルを検出する。これまでにシグナル伝達に関わる代表的なプロテインキナーゼであるプロテインキナーゼA (PKA)の活性検出に成功しており、本手法が確立すれば在来のプロテオーム解析に代表されるボトムアップ的な手法に比べ、はるかに効率的な遺伝子機能解析や薬物スクリーニングの実現が期待できる。

図 細胞内リン酸化シグナル網羅的解析法