◆医療・生命◆     緊急を要する心疾患治療に役立つ心疾患マーカーの測定

 心疾患は,国内では,がんに続く死亡原因となっている.緊急を要する心疾患治療においては,簡便にベッドサイドで測定できる高感度なセンサの開発が望まれる.本研究では,金表面にチオール類が配向性の単分子膜を形成することを利用し,チオールを生成する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)を標識した抗体により生成するチオールを金表面に濃縮させた.この濃縮膜を携帯型SPR(表面プラズモン共鳴)測定器により屈折率の変化として検出するセンサシステムを開発した.心疾患マーカーを高感度に測定可能であることからベッドサイドの心疾患センサとして期待される.

【P1087】       心疾患マーカー検出用マイクロセンシングチップの開発

(産総研)○栗田僚二・横田淑美・佐藤縁・水谷文雄・丹羽修
[連絡者:栗田僚二,電話:029-861-6166]

 現在、国内ではガンに続き心疾患により年間15万人が亡くなっている。特に心疾患は「働き盛りの突然死」として、家族の精神的・経済的負担としても大きな問題である。近年、脳性ナトリウム利尿ペプチドというホルモンが心疾患の予知・予後観察に大きな効果があると期待されており、蛍光/同位体で標識された抗体を用いた免疫測定が行われている。しかしながら、緊急を要する心疾患治療においては、より簡便にベッドサイドで測定できる高感度センサの開発が期待されている。
 一方、表面科学の分野では、チオール類が金などの金属表面に結合し、配向性の単分子膜を形成することが広く知られている。この金−チオール結合現象を見直してみると、溶液中にわずかしか含まれないチオール化合物が金表面に極めて高濃度に濃縮されていることを意味し、この濃縮された膜を測定することにより、これまでのセンサ感度を凌駕することが出来ると考えられる。そこで、チオールを生成する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)標識抗体を合成し、本酵素により生成されるチオールを金表面に濃縮させ、この濃縮膜を携帯型表面プラズモン共鳴測定器により屈折率変化として観測する新規免疫センサシステムを開発した。さらに測定の迅速・簡便化、並びに酵素反応や濃縮効率を向上させるために、微小流路を用いたマイクロデバイス化をおこない、極微量血液サンプル中の心疾患マーカーの測定を行った。本センサは、検出下限濃度が5 ppt(50mプールに0.005g程度)と高感度を示し、また安全・低電力・簡便に測定可能なことから、ベッドサイド測定用の心疾患センサとして有効であると考えられる。

図 携帯型心疾患マーカーセンサーシステム

 ○がセンシングチップ部