生活文化・     エジプト最古級のガラスの化学組成から原料を推定する
 エネルギー

 エジプトでは国際的な発掘調査が行なわれているものの,出土した考古学遺物については国外への持ち出しが厳しく禁じられている.このため,講演者らはポータブル蛍光X線分析装置を開発し,発掘現場へ持ち込み,出土状況からエジプト最古級と考えられているビーズの分析を行なった.その結果,青,赤褐色,琥珀色,黒褐色で透明度の高い美しいビーズはその化学組成からガラスであることが示された.また,カリウムとマグネシウムを高濃度に含むことから,植物灰を用いて作られたソーダライムガラスであることがわかった.

【P1068】     ポータブル蛍光X線分析装置によるエジプト最古級の
           ガラス・ファイアンスのその場分析

(東理大理・早大エジプト学研究所1)○中井 泉、加藤慎啓、柏原輝彦、
保倉明子、西坂朗子1、河合 望1、吉村作治1
[連絡者:
中井 泉、電話03-3260-3662

 2005年夏、早稲田大学エジプト調査隊(調査隊長:吉村作治)によるアブシール南丘陵遺跡の発掘調査に参加し、同遺跡出土のガラスビーズとファイアンスを分析した。前者は紀元前16世紀頃、後者は初期王朝・古王国の時代のものと考えられ、いずれもエジプト最古級の貴重な資料について新しい重要な知見が得られた。
 物質の中には、その物質の誕生から現在までの履歴が隠されていて、物質史とよんでいる。著者らは最先端の分析手法を使って考古遺物を分析することで、物質の中に潜在する物質史の情報を引き出し、考古学に貢献することをめざしている。エジプトでは出土遺物を国外に持ち出すことは禁じられているので、メーカーと共同でポータブルX線分析装置を開発したところ、日本の優れた技術により、市販の卓上型装置より優れた性能を持つ蛍光X線分析装置が完成し、エジプトに運んだ。
 分析したガラスビーズは、第11次調査で石積遺構の北側の斜面中腹から発見され、葦のマットで包まれた遺体と木棺に納められた遺体の計11遺体と共に出土した副葬品である。遺体の頭部、首部、胸部からみつかっており、首飾りの一部であったと考えられる。色は、青、赤褐色、琥珀色、黒褐色で透明度の高い美しいガラスであった。透明ガラスはこの時代では極めてまれで、出土例としてはエジプトでは最も早い例の一つとなる。定量した結果、本ガラスは鉛をほとんど含んでおらず、ソーダライムガラスに分類され、カリウムとマグネシウムを高濃度に含むことから、いずれもその原料に植物灰を用いて作られていることがわかった。

写真 エジプト最古級のガラスビーズ