生活文化・     微 量 金 属 の 添 加 で す だ ち の 果 皮 を 緑 色 に 保 つ
 エネルギー

 すだちの果皮は鮮やかな緑色であるが,熱により茶色に変化するため,加熱加工は極めて困難であった。加熱しても緑色を保つ方法として,すだち果皮を真鍮釜に入れて熱する方法が知られているが,これには真鍮から溶出する微量金属が作用しているものと推定される。そこで本研究では,金属イオンとして,Cu,Zn,Fe,Mn,Co,Srを添加し,熱処理に伴うすだち果皮の色調変化を詳細に検討した。その結果,Cuの添加により,茶色になった果皮が再び緑色に戻ることが判明した。色調変化前後での果皮の分析から,CaとCuの濃度の増大が緑色化に寄与していることを突き止めた。

【A2015】      すだち果皮の色調に及ぼす微量金属元素の作用

(徳島大工1・野田ハニー食品工業2)○木村仁美1・薮谷智規1・本仲純子1
住友公荘2・野田和博2 
[連絡者:木村仁美,電話:088-656-7413]

 鮮やかな緑色を特徴とする、すだちの果皮にはビタミンやミネラル等の栄養素を多量に含んでおり、食品としての有効利用が検討されている。また、食品の色は購買意欲と直結しているため、食品加工、販売に重要なファクターである。しかし、加熱加工を行う際にすだち緑色が茶色に変色することが問題となり従来は大半が廃棄物として処理されていた。このように加熱加工に耐える“緑色”を有する食品は極めて少なくその開発が求められていた。そこで、色調の保持に関する技術開発が行われ、現在ではすだち果皮を真鍮釜中で、加熱浸漬処理を行うことで再び緑色を呈することが報告されている。実際に、調理過程で加熱処理を伴う商品として緑色を保ったすだちマーマレードが加工販売されている。果皮の緑色変化の要因として真鍮の主成分であるCu、Znによる影響と考えられるが、詳しいメカニズムは不明の点が多い。
 本研究では、Cu、Znのみならず、Fe、Mn、Co、Srといった他の金属イオンを添加し、色調変化処理を行うとともに、処理後の果皮中元素濃度を調査して果皮の色調に及ぼす金属の影響を明らかにすることを目的としたものである。この研究の中で色調変化処理を行う際に処理液中にCuイオンが存在する場合のみ色調変化が起こり、茶色に退色した果皮が再び緑色を呈色することが判明した。これは、クロロフィル中心部のポルフィリン環とCuが錯形成し、銅クロロフィルとして存在することで緑色となったものと考えられる。色調変化処理前後での果皮中存在濃度を比較してみると、処理後にはCa濃度は乳酸カルシウムの影響により存在濃度が増加していた。また、Cu濃度が大きく増加しており果皮中に十分存在していることが判明した。そこでCu添加量を変化させたところ、最低1 mg/kgで色調変化が見られ、製品として取り扱うための十分な緑色を発色するためには100 mg/kg以上の添加量が必要であることが判明した。今後、果皮への金属元素の取り込み機構をさらに解明し、生体にとって必須な微量元素に関連して、すだち果皮の健康食品としての有効利用を視野に入れて研究をする予定である。

色調変化処理
処理前 処理後