◆環境・防災◆    化 石 が な く て も 昔 の 生 態 系 の 解 析 が 可 能

 過去,ある場所にどのような生物がいたかを知るためには,通常,貝などの化石を探しだして,その形態を調べる。本研究では,化石そのものを調べるのではなく,150万年前の岩石(コア試料)から有機物を取り出して,その有機物の種類をガスクロマトグラフィー質量分析法で分析した。さらに有機物中の炭素には炭素12と炭素13があり,生物により作られた有機物は炭素13の割合が低いので,その比率を分析した。その結果,かつてその場所にメタンを酸化して有機物を作り出すタイプの微生物(メタン酸化菌)がいて,その有機物をもとにした生態系が存在していたことが推察できた。

【P1054】  第四紀前期の化学合成化石群集におけるメタン酸化菌のバイオマーカー分析

(横浜国立大学・海洋研究開発機構1) ○坪井美里・中村栄子・間嶋隆一・北里洋1・菅寿美1
松本公平1・力石嘉人1・大河内直彦1 [連絡者 : 中村栄子, 電話 : 045-339-3367]

 化学合成群集とは、深海底などで太陽光に依存せず、メタンや硫化水素を一次エネルギーとする生態系である。メタン酸化菌と硫酸還元菌がメタンから硫化水素を作り出し、その硫化水素を貝などの大型生物のエラに共生している硫黄酸化菌が利用して有機物を生成供給することで、大型生物の夥しい個体数を保持していると考えられている。
 本研究のフィールドである横浜市栄区瀬上地区は化学合成群集の貝化石が多く産出し、過去に古生物学的な研究が行われてきた場所である。化学合成群集に特徴的にみられる大型二枚貝化石は、肉眼で種の同定・個体数の確認ができるため、その地点で湧水現象があり、化学合成群集が存在していたという一次的な情報を得るためには非常に有用な指標だが、化学合成群集内で行われているプロセスを理解することは困難である。本研究はこの点を克服し、古細菌(メタン酸化菌のいるグループ)のバイオマーカーと炭素同位体比を用いてメタン酸化菌の分布を明らかにし、二枚貝の産出頻度や産状との関係について考察することを目的とした。

 ボーリングコアから試料を採取し、全有機物を有機溶媒に抽出し、GC/MSによって化合物の同定・定量を行った。また、同定した化合物の炭素同位体比を測定した。バイオマーカーとしては、古細菌の細胞膜を構成しているジエーテル脂質や、脂質のエーテル結合が続成作用によって開裂した各種イソプレノイドを用いた(図)。

(A)
(B)
図 (A)ジエーテル脂質と(B)メタン酸化菌のバイオマーカー、PMI

 貝化石の産出した層準を中心にメタン酸化菌のバイオマーカーが検出された。メタンを経由した炭素は同位体比が軽くなることが知られている。バイオマーカーの炭素安定同位体比はほぼ−60‰以下の値であったので、検出されたバイオマーカーがメタン酸化菌由来であることを示した。このことから、この堆積物中に過去メタン酸化菌が存在し、メタン酸化を出発点とする化学合成群集が存在していたことが推察された。バイオマーカーの組成には、層準ごとにはっきりとした違いが見られ、化学合成が行われている環境場は、微生物学的にみると非常にヘテロな場であったと考えられた。よってこの検出方法は、化石に依存しないミクロな垂直方向の情報を引き出すのに有用と考えられる。また、大量のジエーテル脂質が検出され、多くのエーテル脂質は約150万年間エーテル結合を保持していることが明らかになった。

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