◆環境・防災◆    海洋鉄散布による二酸化炭素固定化の試みとその評価

 二酸化炭素(CO2)の削減策としてCO2固定化技術の中でも海洋鉄散布は経費・効果の面から有力な方法である。鉄散布により植物プランクトンが増殖し、海が緑化される。鉄散布による海洋表層の微量金属とそれらが及ぼす生物への影響について研究した。鉄散布により海洋表層の鉄濃度は数nM程度まで上昇し、植物プランクトンも大幅に増加した。これにより海洋表層の微量金属の組成は大きく変化したが、植物プランクトンの成長に大きな影響はなかった。実験条件で固定化されたCO2は570t(炭素換算)となり、CO2の固定化技術として高い潜在能力を持つことが示された。

【E1006】   亜寒帯西部北太平洋の鉄散布実験SEEDS IIにおける微量金属元素の動態

(京都大院理1・電力中央研究所2・京都大化研3)○中塚清次1・西岡純2・宗林由樹3
【連絡者:宗林由樹、竜話:0774−38−3096】

 我々の生存基性を脅かす環境問題の一つに地球温暖化がある。197年の京都議定書の採択を受けて、地球温暖化原因物質である二酸化炭素(CO2)の具体的な削減目標、削減策が求められるようになった。大気中のCO2を固定する技術はいくつか存在する。中でも、海洋鉄散布は経費・効果の両面から有力な選択肢の一つである。海洋鉄散布は、鉄の枯渇により植物プランクトンの増殖が制限されている海域(赤道太平洋、南極海、北太平洋)に鉄を散布し、植物プランクトンを増殖(海の緑化)させる(図参照)。それによりCO2を海洋に固定する技術として期待されている。しかし、鉄散布が地球環境に与える影響については、未だ解決されていない多くの問題がある。例えば、海洋生態系の人為的改変による影響等が挙げられる。大規模な海洋鉄散布を実施するには、先に述べた問題を解決する必要がある。津田(東京大)を中心とする研究グループは、二回にわたり亜寒帯西部北太平洋で中規模鉄散布実験(SEEDS II)を実施し、生物・化学的応答を観測した。本研究では、鉄散布実験による他の微量金属(コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム等)の影響と、それらが及ぼす生物への影響について研究を行なった。SEEDS 2001,SEEDS IIでは、研究海域に人工的に硫酸鉄を散布して64.80km3の鉄散布区域を形成した。鉄散布により海洋表層の鉄濃度は、数nM(10-9M)程度まで上昇した。その結果、植物プランクトン現存量は大幅に増加した。SEEDS 2001の鉄散布区域における植物プランクトンは、二週間という短い期間にも関わらず、散布前と比較して約20倍程度に増殖し、海洋中のCO2分圧も約340ppmから230ppmに減少した。この海洋中CO2分圧の減少量を炭素に換算すると、570t(30mの樹木630本分)に及ぶ。この他、植物プランクトンの増殖に伴い海洋表層の微貴金属の組成が大きく変化したが、その変化は植物プランクトンの成長制限を引き起こす程度ではなかった。以上から海洋鉄散布はCO2の固定技術として高い潜在権力を有していることが証明された。