◆医療・生命◆    睡 眠 物 質 メ ラ ト ニ ン の 新 た な 高 感 度 検 出 法

 メラトニンは、睡眠・覚醒のサイクルを整え生体リズムの調節などを行うホルモンで、睡眠の促進や時差ぼけ対策にも使われている。又、抗酸化作用や抗癌作用が報告され、老化防止のサプリメントとしての利用も広がっている。しかし、生理作用の詳細や副作用、薬物との相互作用などは明らかでない。これらの解明のためには血中メラトニンの値は重要な指標となるが、ヒトのメラトニン血中濃度は極めて低いためこれまで放射性同位体が用いられてきた。本研究の蛍光誘導体化HPLC法により血中のメラトニン濃度を測定するのに十分な感度が得られたことから生理作用の解明が期待される。

【J2006】       プレカラム蛍光誘導体化HPLC法によるヒト血中メラトニンの定量

(旭川高専・北大院薬1)○館田尚弘・松久喜一・綿路康一1・三浦敏明1
[連絡者:館田尚弘,電話:0166-55-8078]

 脳の奥深くにある松果体という小さな器官でつくられるメラトニンは天然の睡眠薬として働くホルモンである。その産生分泌は網膜で受容する光周期情報で支配されており、夜間は盛んに分泌されるが、夜明け近くになると分泌量は急速に減少することによって、私たちの睡眠-覚醒リズムを調節している。このような生理作用から、メラトニンは高齢者の睡眠障害の治療や海外渡航時の時差ボケ解消などに利用されてきた。また、メラトニンの抗酸化作用や抗癌作用が報告されて以来、老化防止などの目的でサプリメントとしての利用も拡がっている。メラトニンの関与している、このような生理作用の解明や疾患の診断、治療効果の判定などには血中メラトニン値が重要な指標となるため、これまで多数のメラトニン定量法が開発されてきた。しかし、ヒト血中メラトニン濃度は20 pg/ml以下(昼間値)と極めて低値であり、その測定に利用できる方法は、実際上125Iを用いるラジオイムノアッセイ法に限られている。したがって、放射性同位体を用いずに、血中メラトニンが測定できる実用的な方法の開発が求められている。
 本研究では、希塩酸中でオルトフタルアルデヒド(OPA)や2,3-ナフタレンジカルバルデヒド(NA)と加熱すると、3,5-二置換インドール類が発蛍光することに着目し、この反応をプレカラム誘導体化に利用するヒト血中メラトニンのHPLC法について検討した。メラトニン自体も蛍光(λex/λem=285/345nm)を示すが、OPAやNAとの反応では、より長波長の励起および蛍光波長を示すため、自然蛍光を検出する従来のHPLC法に比して、バックグラウンドノイズの低い条件下での測定が可能となった。また、OPA誘導体(λex/λem=360/460nm)より長波長に極大値を示すNA誘導体(λex/λem=400/515nm)の方が、バックグラウンドノイズは低かったが、蛍光強度はOPA誘導体の方が高かった。これらの結果から、OPAを用いたメラトニンの高感度プレカラム誘導体化HPLC法を確立した。本法は20 pg/mlのメラトニンの測定に充分な感度を有し、血清に添加した約10 pg/mlのメラトニンも明瞭なピークとして検出できた。血清の前処理法には改善の余地が残されているため、より簡易な方法を確立することによって、本法の実用性が高まると考えられる。本法は、メラトニンが関連する生理的、病理的機構の解明や疾患の診断に有力な手法になるものと期待される。