◆医療・生命◆    血管内病変の新しい診断法により動脈硬化を早期発見

 ナノ粒子を利用した新しいMRI造影剤により、動脈硬化の初期段階における血管内皮の障害部位を発見する新しい診断法を開発した。このナノ粒子は、MRI造影能をもつ酸化鉄粒子の表面に血管内皮の障害を特異的に認識する色素を修飾したものである。豚の動脈を使った実験では、血管内皮の障害部位にナノ粒子が集積することによりMRIのシグナルが低下し検出することができた。高齢化社会において今後益々増大が予想される動脈硬化などの循環器系疾患の早期診断技術として大いに期待される。

【J2002】       血管内皮障害を認識する酸化鉄粒子型MRI造影剤の開発

(九大院システム生命科学1・九大院医2・バンドー化学3・九大院工4)○浦崎 哲彦1・生田 健次郎1
上徳 豊和2・田辺 美晴3・村田 正治4・新留 琢郎4・吉満 研吾2・下川 宏明2・片山 佳樹4
[連絡者:片山佳樹, 電話:092-642-3608]

 近年、我々を取り巻く社会環境の変化や長寿社会の到来と共に、循環器系疾患は今後ますます増大することが予想される。これまでに動脈硬化といった循環器系疾患において、血管内皮細胞層における機能障害が疾病の初期段階に見られることが確認されている。これをセンシングすることが可能となれば疾患が悪化する前に早期治療が可能となるが、循環器系疾患では冠動脈における血流量が極めて大きいため、従来の様に高価な生体分子を用いるターゲティングは不可能である。すなわち、これらの目的に供する為には全く新しい血管内病変ターゲティングの概念を創製する必要がある。
 本研究では、まず、血管内皮障害センシングを達成する分子として、ある種の色素分子を基本骨格とするユニットが内皮障害部位を特異的に認識できることを確認した。これは、内皮障害に基づく血管内面のマクロな物性変化に起因するものである。次いで、これを踏まえて、図に示す造影概念を創製した。用いる化合物は、MRI造影能を有する酸化鉄粒子表面に内皮障害部位センシングユニットとして色素構造を修飾したナノ粒子である。本造影剤を血管内表面の一部に内皮剥離を誘発した豚大動脈血管片と相互作用した結果、血管内皮障害部位に特異的に集積し、それに伴うMRIシグナルの低下を観察した。本結果より、本機能化造影剤は、今までに無い血管内皮障害特異的な新規診断法への応用が期待できる。

図 血管表面模式図および内皮膚障害特異的なMRI概念図