◆医療・生命◆       皮 膚 で コ レ ス テ ロ ー ル を チ ェ ッ ク

 生活習慣病に関連の深い血中コレステロール値を測定するためには病院へ行って採血をする必要があるが、医療機関に出向くことなく、非侵襲的に皮膚のコレステロールを計測する手法が開発された。これは、皮膚コレステロールがエタノールに溶け出す性質を使ってコレステロールの分子鋳型を利用した電気化学的な計測法を用いるセンサーである。得られた値は血中コレステロール値とよい相関を示したことから、本法が実用化されると、来院が困難な高齢者などが家庭でコレステロール値を測定することが可能となり、血中コレステロール管理に役立つと期待される。

【P1065】       分子鋳型を用いた新しい皮膚コレステロールの計測法

(阪府大・先端研) 深澤 聡、椎木 弘、○長岡 勉
[連絡者:長岡 勉、電話072-254-9821]

 食文化の相違から、高コレステロール血症を含む高脂血症は欧米人に多く見られ、とりわけ日本人には軽視されがちであるが、平成2年には700万人であったその人口は平成12年では2000万人を超えるまでに増大している。さらに、他の生活習慣病や疾患との合併症のリスクから日常の計測による管理が必要とされ、コレステロール濃度の適正レベルの維持はゆとりある日常生活を送るための必要条件となっている。従って、簡易なコレステロール計測法の開発は、医療従事者だけでなく多くの人々に切望されている。しかしながら、現在行なわれている計測の全てが酵素法によるもので、採血(侵襲操作)を伴い検査技師を要するため医療機関に出向く必要があるなど容易ではない。そこで、コレステロールの分子鋳型を有する自己集合単分子膜(SAM)を用いた非侵襲型コレステロールセンサの開発を試みた。
 皮膚にエタノールを接触させると、皮膚コレステロールがエタノールに溶け出す。この抽出溶液に分子鋳型膜を形成した金電極を浸漬すると、鋳型にコレステロールが取り込まれる(図1)。酸化還元種を含む電解水溶液中でボルタンメトリーを行い、コレステロール取り込み前後の酸化電流の減少値を観察した。この電流変化は電気化学的不活性なコレステロール分子が鋳型に取り込まれると、金表面に拡散する酸化還元種が減少することに起因する。この変化を読み取ることでコレステロール濃度がわかる仕組みである(図2)。非侵襲で迅速な測定、高感度であるなど従来の酵素法に代わる新しい計測法であり、自宅でのコレステロール測定が可能になり、外出困難な高齢者や遠隔地居住者のコレステロール計測が容易になることが予想される。

図1 コレステロール認識の概念
図2 本法と血液検査結果との比較(趣旨説明および本人と倫理委員会の承認後、被験者A〜Dには協力していただいた)