◆環境・防災◆  高圧炭酸ガスで土壌中のダイオキシンを簡単に抽出分析
 極微量でも毒性の高いダイオキシンは、一旦環境に広がってしまうと、回収して分析するには非常に長い時間と慎重な作業が必要である。特に土壌中や川の底質に含まれるダイオキシンの回収・分析には、共存物質が多いこと、吸着状態が複雑なことなどのため、公定法では有害な有機溶媒を用い10日前後必要である。本研究では、安価で無害な炭酸ガスを高圧にして超臨界状態とし、これを利用することにより、土壌・底質中のダイオキシンを回収・分析できる新しい方法を開発した。この方法によれば作業時間が5時間に短縮でき、有害有機溶媒量が少なく、安価にダイオキシンが分析できる。

【F2001】  超臨界二酸化炭素を用いた土壌・底質中ダイオキシン類簡易測定法の開発

(愛媛大学農学部) ○宮脇崇・川嶋文人・本田克久 
[連絡者:宮脇崇,電話:089-946-9970]

 近年,有機汚染化学物質の中でも特に毒性が高いダイオキシン類による汚染が社会問題となっている.平成12年の「ダイオキシン類対策特別措置法」の施行に続き,平成15年には「土壌汚染対策法」が施行され,全国各地でダイオキシン類汚染の調査が進められている.特に,土壌・底質は他の環境媒体に比べて汚染濃度が高いため,万が一ダイオキシン類による汚染が発見された場合には早急な対策や安全評価が行われなければならない.そのためには,低コストで迅速な分析手法が必要となる.しかしながら,現行の公定法は,分析操作に多大な時間や費用がかかるだけでなく,人体に有害なトルエンなどの有機溶媒を多量に使うため,作業環境への影響も懸念される.そのため,これに替わる新たなダイオキシン類測定方法の開発が求められている.
 そこで,本研究は迅速,低コスト,環境に優しい測定方法の開発を目指し,安価で無害な二酸化炭素を抽出溶媒とした土壌・底質中ダイオキシン類の簡易測定法を開発するため,その要素研究を行った.その結果,超臨界二酸化炭素に少量の水を添加することにより,ソックスレー抽出(公定法)とほぼ同等の抽出ができることが判明した.また,超臨界二酸化炭素抽出法はその圧力・温度条件を変えることにより溶媒特性の調節が可能であり,ソックスレー抽出法に比べて選択的な抽出が行えることから,精製工程についても簡易化が可能となった.本研究で使用した超臨界抽出システムを図に示す.超臨界二酸化炭素により抽出セル内の土壌・底質試料からダイオキシン類が抽出され,背圧弁で減圧された後,背圧弁の下部にある固相吸着トラップに捕捉される.ダイオキシン類は少量のヘキサンにより溶出させ,濃縮後,質量分析計で測定した.本法より得られたダイオキシン類の実測濃度は公定法による値とほぼ同等であることが確認された.また,本法による作業時間は公定法が10日間前後であるのに対してわずか5時間程度であり,使用する有機溶媒量は公定法に比べ1/10以下に低減することができた.有機溶媒レスの抽出を可能にした本法は安全性が高く,ランニングコストが安価であるため,土壌・底質中ダイオキシン類分析の迅速・簡易測定技術としてその実用化が期待される.