◆環境・防災◆ 海水の汚染と紫外線の増加で過酸化水素が多く発生する
 生体への悪影響が指摘されている活性酸素種の一つで,強い酸化力を有する過酸化水素は,大気中で太陽の紫外線の作用によって自然に生成することは知られている。しかし,海水中での光による過酸化水素の生成がどの程度であるのかは不明であった。この研究では,沖縄島周辺の24地点で採取した海水を,紫外線を透過する容器及び遮断する容器に入れて光を照射し,過酸化水素の生成状況を比較した。有機物を多く含む海水や赤土汚染された地域の海水中では紫外線の影響により過酸化水素ができやすいことが明らかになり,サンゴなど生態系への影響が懸念される。

【P2030】      沖縄島周辺の海水中に光化学生成する過酸化水素

(琉大理・広大院1) ○中島仁美1・岡田孝一郎・藤村弘行・新垣雄光・棚原朗
[連絡者:新垣雄光,電話:098-895-8553]

  過酸化水素(HOOH)は,環境中で光化学反応によって生成する,活性酸素種の一つである。HOOHは大気中のオゾンより強い酸化力をもつ物質であり,大気中では,酸性雨の形成や森林衰退などに関与していることが報告されている。しかし、海水中でのHOOHの役割や挙動については、よくわかっていない。海水中の過酸化水素の起源についても晴れの日には大気からの乾性沈着と,海水中での光化学反応による生成があるが、海水中でのHOOH濃度が低いこととフィールドでの測定が困難であるために十分な研究が行われていない。HOOHの大気−海洋間の挙動は未だ不明な点が多い。
  そこで,本研究では沖縄島周辺の24地点の沿岸及び河口域で海水を採取し,光化学反応によって生成するHOOHを調べた。試料は紫外線の影響を見るために,紫外線を透過する石英セルと遮断するガラスセルに入れて太陽光シミュレーターを用いて光照射を行った。カタラーゼと蛍光試薬を加え,過酸化物を分別固定した。これをフローインジェクションシステムに注入し,蛍光強度を測定することでHOOH濃度を決定し,さらに生成速度を求めた。生成速度は沖縄の夏の太陽光の光強度に規格化した。

  石英セルとガラスセルで測定を行った結果を試料採取場所に一致させて図に示した。ほとんどの試料でガラスセルに比べて石英セルを使用したときの過酸化水素の生成速度が大きかった。この結果から,将来,オゾン層破壊などで紫外線が増加した場合、海水中のHOOH濃度が増加することが考えられる。過酸化水素の生成速度とDOC(溶存有機炭素)濃度には強い相関が見られた。これは溶存有機物が光酸化されて過酸化水素を生成するためだと考えられた。さらに全鉄イオンとの強い相関も見られ、全鉄の濃度が高い場所(沖縄島北部の赤土汚染のある場所など)では過酸化水素の生成速度も速くなっていた。HOOHはOHラジカルなど,より反応性の高い活性酸素を作り出すことが知られているので,サンゴなど生態系への影響が懸念される。