◆環境・防災◆  都市大気汚染の元凶となる環境微粒子の正体を明かす
 都市大気汚染の原因となっているディーゼル排気微粒子(DEP)は発がん性が疑われている。鉄と共存すると更に高い発がん性を示すとの指摘もある。道路と鉄道に近い場所で集めた環境微粒子(84粒)について電子線マイクロアナリシス法によってその起源を調べた。その結果,14粒がDEPであり,51粒が鉄粒子であった。粒子表面を詳細に見たところ,鉄粒子の37%が更に微小な他の起源粒子をその表面に吸着しており,その大部分はDEPであることが分かった。すなわち,複合汚染微粒子の正体は数マイクロメートルの鉄粒子に数10ナノメートルのDEPが付着しているものであった。

【I2015】     マイクロビームアナリシス法を用いた都市大気環境中の
             複合汚染微粒子に対する評価法の開発

(東大環セ1・東理大理工2・三菱ガス化学3)  ○冨安文武乃進1・鈴木健一郎2・後藤拓也3・尾張真則1・二瓶好正2  [連絡者:冨安文武乃進,電話:04-7136-4203]

  環境微粒子の人への影響を評価するためには,1つ1つの粒子ごとに,その形や起源などを捉えることが重要となる。ここで都市大気環境汚染に注目すれば,ディーゼル排気微粒子(DEP)による汚染とその健康影響が良く議論されている。このDEPは発がん性物質であると考えられ,また鉄と共存することで発がん性が高くなるとの指摘がある。仮に,下の挿絵の様に異なる起源の粒子(例えばDEPと鉄粒子)が環境中で複合すれば,人の健康を議論する上で重要な課題となる可能性がある。
  以上の様な背景から,本研究では,マイクロビームアナリシス法を用いた都市大気中の複合汚染微粒子に対する評価法の開発を目指した。具体的には,道路と鉄道に近い場所で集められた環境微粒子に対して,始めにフィールドエミッション型走査電子顕微鏡(FE-SEM)法を用いて,個々の粒子に対する形状観察を行った。同時に,電子線マイクロアナリシス(EPMA)法に基づく粒別起源解析を行い,粒子個々の主たる起源を推定した。その結果,測定した84粒子のうち14粒子がDEPに,51粒子が鉄粒子に起源分類された。また粒子表面の詳細なFE-SEM観察により,鉄粒子の37 %が,更に微小な他の起源粒子をその表面に吸着させていることが分った。次いで,飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)装置を用いて,この複合汚染微粒子の表面に対する元素分布計測を行った。この結果,大部分の吸着粒子は,DEPの特徴である微量の珪素と有機物を含む炭素主成分の粒子であることが分った。以上の結果を総合的に判断した結果,TOF-SIMS分析を適用した粒子は,鉄粒子の表面に複数のDEPが環境中で吸着した複合汚染微粒子であると結論した。