環境・防災◆ カドミウム汚染土壌のモニタリングは高感度・高精度の分析法で
 生体に毒性をもつ有害重金属の一つであるカドミウムは,土壌汚染対策法の対象物質であり,土壌中の含有量を正確に測定する必要がある。しかし,現在適用されている試験法では,土壌試料の分解法が不十分である。そこで,土壌の主成分のケイ素をフッ化物で揮散除去する分解法とイオン交換樹脂を用いて他の主成分元素を除去する方法を組み合わせて,原子吸光法により土壌中のカドミウムを高感度かつ高精度に定量する方法を確立した。この方法を土壌の標準物質に適用したところ,1mg/kg未満という非常に低濃度のカドミウムを正しく定量できることがわかった。

【I1013】           土壌中カドミウムの高感度定量

(千葉大工) ○高岡 徹,五十嵐 香,小熊 幸一
[連絡者:小熊 幸一, 電話043-290-3502]

 有害重金属は環境汚染の主要な要因の一つである。様々な廃棄ガスや産業廃棄物に含まれる有害重金属は土壌中に蓄積し、生態に悪影響を及ぼす。我が国では、2003年2月に土壌汚染対策法が施行され、第二種特定有害物質重金属等の一つとしてカドミウムが法の対象物質となっている。汚染区域を指定する基準(指定基準)は土壌含有量基準及び土壌溶出量基準として定められ、カドミウムついては前者が150 mg/kg、後者が0.01mg/Lである。これらの測定にはJIS K0102工場排水試験方法を適用することとなっているが、土壌含有量については試料の分解法が不十分で必ずしも正しい分析値を与えるとは思えない。
 本研究では、土壌を分解する際にフッ化ケイ素の揮散除去に硫酸を用いることに着目し、硫酸をベースとするヨウ化カリウム-硫酸系陰イオン交換を用いて主成分(マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄)からカドミウムを選択的に分離し、電気加熱原子吸光法(ETAAS)で高感度定量する方法を確立した。

 土壌試料10〜50 mgをPTFE製分解容器にはかり取り、塩酸−硝酸−フッ化水素酸を加えたのち家庭用電子レンジを用いて分解した。次いで所定量の硫酸を添加しホットプレート上で白煙処理した。ヨウ化カリウムとアスコルビン酸(鉄の還元剤)を加えて調製した試料溶液を強塩基性陰イオン交換樹脂(Bio-Rad AG1-X8)カラムに流してカドミウムをカラムに吸着させ主成分から分離した。希硝酸でカラムから溶離したカドミウムはETAASによって定量した。
 本法を日本分析化学会の土壌認証標準物質(JSAC 0401 , JSAC 0411)の分析に適用したところ、認証値4.3 mg/kg、0.27 mg/kgのカドミウムについてこれらの値とよく一致する分析値が得られ,相対標準偏差は約5%であった。以上より、本法は土壌中のカドミウムを高感度かつ高精度に定量でき、土壌汚染のモニタリング法として有用と考えられる。