◆生活文化・
 エネルギー◆ 米のカドミウム規制に対応する非破壊・迅速分析法

 日本の水田の一部では米に含まれるカドミウム(Cd)濃度が高く,現在大きな問題となっている。国際的にはCdの上限許容濃度を 0.2 ppmとする案が提案されており,高感度で迅速な分析法が必要とされている。即発ガンマ線分析法は迅速な非破壊分析法として期待されているが,米に含まれるCdを測定する際には,多量に共存する水素が妨害元素となっていた。本研究では,多重ガンマ線検出法を適用して,その妨害を抑えた測定を行うと,10分間測定で0.05 ppm以下のCdが定量でき,3ヶ月で約1万3千検体の試料を分析できることが見積もられた。

【I1011】     多重即発ガンマ線分析法を用いた米に含まれるCdの分析

(原研) ○藤 暢輔・大島真澄・小泉光生・長 明彦・木村 敦・後藤 淳・初川雄一
[連絡者:藤 暢輔、電話:029-282-5686]

 日本は土壌中のカドミウム濃度が高い傾向にあり、かつ水田による濃度の差が大きいことが知られている。検定法である原子吸光法や一般に用いられているICP-MSにおいては、その感度においては十分な精度を有するが、化学分離が必要であるためその定量に時間を要する。よって、現在の測定方法では、毎年供給される米のうち、ごく一部しか検査できず、カドミウム汚染米を精度良く効果的に取り除くことが出来ない。よって、より迅速で高精度な定量法が望まれている。
 米のカドミウム濃度を即発ガンマ線によって分析する場合、多量に含まれる水素が妨害元素となる。カドミウムは低いエネルギーの即発ガンマ線を放出するが、水素の即発ガンマ線は高いエネルギーを持つ。高いエネルギーの即発ガンマ線のピークは、低エネルギー側に裾を引くためにカドミウムの即発ガンマ線を覆ってしまい、検出が困難になる。水素からの影響を取り除く方法の1つに灰化があるが、手間と時間がかかる上に、カドミウム金属を含む化合物の多くが低い融点を持つために、過小評価してしまう恐れがある。水素が1本しか即発ガンマ線を放出しないのに対し、カドミウムは2本以上の強い即発ガンマ線を同時に放出する。即発ガンマ線分析に多重ガンマ線検出法を適用することによって、同時に1本しかガンマ線を放出しない元素からの影響を低減することができる。これにより米に含まれる水素からの影響を抑え、カドミウムの定量限界を向上させることが可能である。本研究では、多重即発ガンマ線分析法による米に含まれるカドミウムの検出限界を求めた。
 日本原子力研究所の3号炉C-2ラインにおいて、米に含まれるカドミウムの定量を多重ガンマ線検出法を用いた即発ガンマ線分析によって行った。測定は2台のHPGe検出器を用いた。多重ガンマ線検出法による即発ガンマ線分析での米のカドミウムの測定限界を求める為に、標準カドミウム試料と米試料を用い、それぞれ1日程度の測定を行った。本研究の結果から絶対効率が10%程度である検出器を用いた場合、10分の測定で0.05ppm以下まで測定が可能であることが見積もられた。この検出器を用いれば、3ヶ月で約1万3千の米試料が測定可能となり、より詳細で正確な汚染検査が可能になると期待される。