◆医療・生命◆ 医療現場で活躍できる高度集積化メディカルチップの開発
 医療現場では緊急に患者の情報を収集し,複数の検査項目を測定して総合的に診断・治療を進める必要がある。このような要請に基づき,迅速に多項目の検査をその場で同時に行い,かつ連続測定のできる高度集積化マイクロチップを作製した。小型・集積化に優れた電気化学測定を採用し,チップ化のために電極構造,材質などに種々の工夫を施した。このような集積型センサを用いて必要な濃度範囲の測定が可能であった。本メディカルチップは採血量・時間・手間・コストを従来よりも大幅に削減可能であり,今後動物実験によりさらなる実証試験を行う予定である。

【F2017】    医療用集積化マイクロチップ(メディカルチップ)の開発と応用

(慶應大理工1・慶應大医2・NTT-MI3・NTT-AT4・神奈川産総研5)○松熊佳奈1・丸山健一1
栗田僚二4・伊藤 健5・丹羽 修3・藤島清太郎2・鈴木孝治1
[連絡者:鈴木孝治, 電話;045-566-1568]

 人が病気にかかると,高熱・食欲減退・体重減少などによって身体はシグナルを送ってくれるが,正確な病気の診断や把握には客観的数値として示される検査が必要となる。特に救急医療現場においては,生命に関わる症状を早期発見・特定し、適切な処置を施すために正確さや迅速さが必要とされる。緊急血液検査は、血中電解質(Na+、K+)血液ガス(pH、pO2>)を必須とし、血糖値(グルコース)、乳酸値(ラクテイト)など複数項目にわたる。例えば,心不全はNa+値・乳酸値は上がるが血糖値は下がるなど,各項目は複雑に絡み合い,一つの結果からは正確な診断は下すことはできない。複数におよぶ検査結果を早急に得て総合的に判断することによって特定できるのである。
 本研究では、このような緊急現場ならびに集中治療室(ICU)での“その場検査(POCT)”で求められている簡易検査を実現するために、一度に多項目を迅速に連続モニタリングできる集積化マイクロチップ(図1)の作製を行なった。小型・集積化に優れた電気化学測定に基づくセンサを用いることにより,採血量・時間・手間・コストをこれまでより大幅に削減させることが可能である。特に,本チップでは新たにポテンシオ・アンペロメトリーを集積化した。チップ化のために新たな電極構造を有した微小ISEチップ(Na+、K+センサ)は,精度向上のため内部電解質溶液を保持した形状を実現し,基準電位を示す微小参照電極に関しても新規電極構造を有している。pH電極は,高価でもろく微小化困難なガラス電極ではなく,チップ化に特化したIr酸化被膜をPt電極上に形成して作製した。グルコース値とラクテート値は,各酸化酵素を保持したオスミウムポリマーを固定し、酵素電極として作製した。以上の集積化したすべてのセンサに関して生体濃度範囲において測定可能であったことから、メディカルチップとしての応用が可能である。今後,このメディカルチップの特長である簡易,迅速,耐久性に関して動物実験の連続モニタリングにより実証していく。