◆生活文化・
 エネルギー◆ 髪のダメージを近赤外線で調べる

 近年パーマやヘアカラーによる毛髪のダメージが深刻化している。ダメージを効果的に修復するためには,毛髪の状態を表面から内部まで正確に評価する必要がある。従来,摩擦感,ねじり硬さ等を専用機で測定していたが,操作が煩雑であり毛髪を切断しなければならなかった。近赤外分光法を用いることにより,プローブを毛髪に押しあてるだけで化学的損傷変化の測定ができる。本法は1回の測定で誰でも簡単かつ迅速に2種類の毛髪物性値を同時に予測できる。この方法は,毛髪の状態を客観的に評価する手段としてだけでなく,化学的損傷度の評価法としても期待できる。

【E2008】        近赤外分光法によるヒト毛髪物性値の評価

(ポーラ化成工業(株) 品質開発チーム) ○山川弓香・宮前裕太
〔連絡者:山川弓香,電話:045-826-7222〕

 ファッション性を重視してパーマやヘアカラーを繰り返し,毛髪のダメージは益々深刻化している.パーマやヘアカラーによるダメージは,薬剤が毛髪表面から内部に浸透し,タンパク変性等の化学変化により引き起こされる.一方で,毛髪のダメージに対する消費者の関心は非常に高く,それに合わせ,ダメージ修復機能を有するヘアケア製品が市場を賑わしている.効果的なダメージ修復のためには,毛髪のダメージ状態を表面から内部まで正確に評価する必要があるが,現状における毛髪状態の評価では,摩擦感,ねじり硬さ等の専用機を用いた物性値測定が行われているものの,操作が煩雑かつ毛髪の切断を要する侵襲法といういくつかの課題がある.そのため,毛髪のダメージ評価は,自己申告や触指による官能評価に頼らざるを得ない状況であり,客観的,簡便,迅速かつ非侵襲である毛髪評価法の開発が待ち望まれている.

 本研究では,簡便,迅速かつ非侵襲法が期待でき,化学的変化を捉えかつ光浸透性の高い近赤外分光法(NIR法)に着目し,毛髪物性測定法の代替検討を行った.(NIR法は,図のように,プローブを毛髪に押し当てるだけで測定できる非常に簡便な測定法である.)その結果,上記の毛髪物性値を予測可能な,ある特異的なNIRの波長領域を見つけ出した.つまり,誰でも簡単・迅速に,1回の測定で2種の毛髪物性値を同時に予測できる評価法を開発した.更に,NIRスペクトルは,個人の未処理,パーマ,ブリーチの処理別,処理濃度及び回数による毛髪の化学的損傷変化をより明確に捉え,各々を分類できることが確認された.本報告は,NIR法が毛髪状態を客観的に評価する物性測定の代替法として有効なだけでなく,化学的損傷度について評価するのにも適した方法であることを示唆している.