◆ 新素材・    キラル識別のルネッサンス
 先端技術◆   
 超高感度の不斉識別を可能にする新しい原理のキラル識別法を開発した。従来、光学異性体の分離・識別に広く用いられているジアステレオマー誘導体化法は、できたジアステレオマーの不斉中心の距離により分離・識別ができなくなるという本質的な問題点を持っていたが、多機能性誘導体化試薬を用いたキラル識別を考案してこれを解決し、これまで困難であった異性体の分離、識別、絶対配置決定を可能にした。この方法は天然生理活性化合物研究や精密な立体化学研究の新展開をもたらすものであり、これまでにない精密な有機化学の始まりと期待される。
【1B12】 ジアステレオマー誘導体化法の“本質的問題点”を解決した
      超高感度不斉識別法の開発と展開

  (東北大学生命)◯大類 洋・赤坂 和昭
    [連絡者:大類 洋、E-mail:ohrui@biochem.tohoku.ac.jp]
  
 ルイ・パスツールによって光学異性体が発見されて以来、光学異性と生理活性に関する研究は常に自然科学における重要な研究課題である。光学異性体を分離・識別するために古くから最も広く使われている方法に“ジアステレオマー誘導体化法”がある。しかし、このジアステレオマー誘導体化法には「誘導体化したジアステレオマーの不斉中心間が4結合以上離れると分離・識別が出来なくなる」という致命的な問題点が有った。これは本分析法の“本質的なもの”で解決不可能と考えられており、分析法が無いため多くの天然生理活性化合物の絶対配置が未決定のまま、また合成化合物の光学純度が未決定のまま取り残されていた。
 本研究は、多機能性誘導体化試薬を創製し「誘導体化ジアステレオマーに特定のヘリカルなキラルコンフォメーションをとらせ、分析対象分子の不斉中心がそのキラルコンフォマー分子に直接結合したジアステレオマーとして識別する」という、キラル識別の全く新しい原理を考案し、ジアステレオマー誘導体化法の“本質的”と考えられていた問題点を解決し、超高感度の不斉識別を可能としたものである。
 具体的にはゴーシュ効果を利用したキラルカルボン酸用誘導体化試薬1A2P-OTf(OH),2A1P-OTf(OH)の開発に始まり、現在、環構造を利用した2ACyH-OHで25位に分岐メチルをもつキラルカルボン酸を誘導体化し(不斉中心間26結合)、HPLCで分離、フェムトモルの超高感度で検出して絶対配置を決定する方法を開発している。一方キラルアルコールは2ACyH-COOHでメチル分岐一級アルコールを同様に識別出来るばかりではなく、炭素鎖が一つしか違わない長鎖2級アルコールの識別、絶対配置の決定が出来る。更に遠隔位にメチル分岐を持つ2級アルコールの4つ全ての異性体の分離、識別、絶対配置決定を可能としている。
 この超高感度不斉識別法の開発により従来不可能であった天然生理活性化合物の絶対構造式が次々と決定され,有機合成でラセミ化が疑われる強塩基を使った反応や接触水素化反応等の精密な立体化学的検証が可能となった。このように本超感度不斉識別法の開発により、従来に無い精密な有機化学が展開し始めた。 本業績はキラル識別の“ルネッサンス”ともいえる。