◆医療・生命◆  マイクロチップで肝細胞の培養に成功
 肝臓は、化学物質の合成、解毒、貯蔵、加工など様々な化学反応を行うとともに、薬の代謝など我々の生命を維持していく上で非常に重要な多くの機能を持っている。これらの機能を生体関連物質の合成、薬物の体内の動態解析、有害物質のスクリーニング等に利用するため、マイクロチップの集積化技術と組み合せることにより、生体の機能を維持したままでマイクロチップ内でこの肝細胞培養に成功した。大量の肝細胞を必要としないで、少ない細胞でも効率よく実験が行えるため、肝細胞の多種機能を生かした高機能マイクロデバイスを開発することにより様々な分野への応用が期待される。
【1G17】 分析システムの集積化(34) −マイクロチップ内での肝細胞培養と機能維持

  (東大院工1・CREST2・東大院農学生命3・東女医大先端生命研4・KAST5) 
  ○田中有希1, 2・佐藤記一2, 3, 5・大和雅之2, 4・岡野光夫2, 4・北森武彦1, 2, 5
  [連絡者:北森武彦,E-mail:kitamori@icl.t.u-tokyo.ac.jp]

  
 肝臓は、「生体の化学工場」といわれているように、物質の合成、解毒、貯蔵、加工など、体内においてさまざまな反応を行っている。その高い機能を利用することにより、生体関連物質の合成、薬物の体内における動態解析、生物・化学兵器なども含めた有害物質のスクリーニングなど、様々な応用が期待できる。しかしながら、大量の肝細胞を手に入れるのは困難であり、より少量の細胞で効率的に実験できる手法が求められている。
 一方、本研究室で研究を進めている“化学反応の集積化”は、反応の高効率化・高速化・省資源化・などのメリットが期待でき、世界的に注目されている。この集積化デバイスと肝細胞の機能を組み合わせれば、細胞を効率的に利用し、より高機能なマイクロ化学システムを実現できると着想した。
 通常、肝細胞はその機能を維持したまま生体外で培養することが困難とされているため、本研究では、マイクロチップ内での最適な培養条件について検討した。肝臓が血液を介して栄養分や酸素を受け取り、代謝産物や老廃物を排出している系をモデルにして、肝細胞を培養したマイクロチャネル内に培地を灌流させることで、より生体に近い状態で肝細胞培養を行うことを目指した。その結果、単にマイクロチップ内で培養した場合には、培養開始後2時間程度で細胞の活性が低下してしまう様子が観察されたが、灌流を行った場合では、4日後においても細胞が良好に生存していた。また、この時、肝細胞の活性指標となるアルブミンや尿素合成能力も十分に維持されていることを確認した。本研究によりマイクロチップ内で機能を維持したまま肝細胞を培養する方法が明らかとなり、今後肝細胞の様々な機能を生かした高機能マイクロデバイスを開発することが可能になったと結論できる。
通常、肝細胞はその機能を維持したまま生体外で培養することが困難とされているため、本研究では、マイクロチップ内での最適な培養条件について検討した。肝臓が血液を介して栄養分や酸素を受け取り、代謝産物や老廃物を排出している系をモデルにして、肝細胞を培養したマイクロチャネル内に培地を灌流させることで、より生体に近い状態で肝細胞培養を行うことを目指した。その結果、単にマイクロチップ内で培養した場合には、培養開始後2時間程度で細胞の活性が低下してしまう様子が観察されたが、灌流を行った場合では、4日後においても細胞が良好に生存していた。また、この時、肝細胞の活性指標となるアルブミンや尿素合成能力も十分に維持されていることを確認した。本研究によりマイクロチップ内で機能を維持したまま肝細胞を培養する方法が明らかとなり、今後肝細胞の様々な機能を生かした高機能マイクロデバイスを開発することが可能になったと結論できる。
図 マイクロチップ内での肝細胞培養